オンラインを活用した繊維輸出の新たな流れ-日本と世界をつなぐKATSU NEW YORKの取り組み-

(米国)

ニューヨーク発

2016年05月27日

 デザイナーやバイヤーの中心層が、インターネットで情報を集める20~30代の「グーグル世代」に移行するにつれ、これまで展示会を通じた販路開拓が主だった繊維輸出の商流に変化が生まれている。日本製生地の企画、米国への輸入・販売を手掛けるKATSU NEW YORKは2015年からオンラインビジネスに参入し、新しい商流に乗りつつ顧客を獲得している。同社代表取締役社長の河崎克彦氏と日本代表の潮平須賀氏に同社の取り組みについて聞いた(4月29日)。

<オンラインとオフラインを組み合わせて相乗効果>

問:オンラインビジネスを開始したきっかけは。

 

答:米国のバーチャルショールーム運営会社LE SOUK(ル・スーク)から日本製生地を取り扱いたいとの相談があり、検討を開始した。当初は社内でオンラインビジネスに懐疑的な声が優勢だった。しかし、詳しく学ぶにつれ、その優位性や必要性を感じ、ル・スークのプラットホーム上に、オンラインショールーム「Katsu Kafe」を開設した。

 

 オンラインビジネスは自社だけでなく業界全体として利用できると考え、世界から信頼される日本製生地の競争優位性を発信していく場として「ジャパン・バーチャル・パビリオン(JVP)」を立ち上げた。現在、Katsu Kafeを含め、繊維メーカーなど13社が参加し、出展企業の製品はル・スークのプラットホーム上に作られた各社のオンラインショールームで展示されている。JVPの特設ページもル・スークのウェブサイトに近々公開される予定だ。

 

問:オンラインビジネスの特徴は。

 

答:オンラインは時間の制約がなく、年に数回のみ開催される展示会では語り尽くせない商品の魅力や作り手の特徴を丁寧に説明することができる。

 

 簡易な決済も、オンラインビジネスのメリットといえる。これまでサンプル出荷から入金までの手続きに手間がかかっていたが、オンラインではサンプル注文のタイミングで入金される。クレジット手数料を支払う必要があるが、入金管理を行うアシスタントの人件費に比べればはるかに安価で、売掛金の未収も防げる。また、JVPの展示商品サンプルは全て12センチ×17センチ四方のスワッチ見本にカットされ、ニューヨーク市ブルックリンの倉庫に保管されており、北米内であれば注文から34日以内にバイヤーの手元にスワッチ見本が届く仕組みになっている。

 

 もちろん対面による商談も重要で、オンラインビジネスは既存の展示会を完全に代替するものではない。しかし、オンラインとオフラインを組み合わせることで、それぞれの利点を生かし、欠点を補うことができる。KATSU NEW YORKのオフィススペースでもKatsu Kafe のオープンハウスを実施し、製品を展示している。

写真 Katsu Kafeオープンハウスの様子(KATSU NEW YORK提供)

 年配のバイヤーの中には、オンラインビジネスが苦手で、生地は展示会で探すという人もいる。しかし、実際に生地探しを行うのは責任者レベルではなく、オンラインに強い2030代のアシスタントバイヤーが中心となることが多い。オンラインの需要は、今後も確実に拡大していくものと思われる。

 

<若手バイヤーとの関係構築で新規顧客を開拓>

問:JVPではどのような成果が出ているか。

 

答:個々の出展企業の販売成果については言えないが、Katsu Kafeではカナダのスタートアップや米国のストリート系ブランド「シュプリーム」などから注文を受けている。現在、オンラインを通じた売り上げは全体の3%だが、2018年までに30%まで拡大することを目指している。

 

 オンラインで生地を購入するバイヤーは、年間売上高が5億~200億円規模の比較的若いブランドが中心だ。スタートアップ経験者は大手ブランドに転籍することも多く、若い世代のバイヤーとの関係を構築することで、大手ブランドの新規開拓も期待できる。

 

 大手ブランドへの宣伝効果もある。ル・スークのプラットホームを通じて、アメリカファッションデザイナー評議会の会員400人超のデザイナーにニュースレターが配信されている。実際、ニュースレターを読んだ米アパレル企業アイリーン・フィッシャーのバイヤーから、播州織の特集記事を読んだという反響をもらったこともある。

写真 ル・スークが配信するニュースレター(KATSU NEW YORK提供)

問:JVPの将来展望は。

 

答:まずは出展企業を30社まで増やす計画だ。個別企業だけでなく、地方の繊維組合や自治体も関心を示している。優れた製品を有するが、独自に海外展開する余力のない企業の受け皿にしていきたい。将来的には、製品だけでなく接客対応まで含め、世界に誇る日本のおもてなしが提供できる、日本を代表する30社に絞ることが目標だ。ブランディングとして、JVP出展者は常に最高の製品とサービスを提供してくれる、というイメージを構築できるよう、きちんとした基準をつくりたい。

 

(渡辺謙二郎)

(米国)

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