新関税率が導入、経済への悪影響が懸念

(イラク)

ドバイ発

2016年05月18日

 イラクで新たな関税率が導入された。新関税率は2月1日から運用される予定だったが、実際にいつ運用が開始されたのか明確ではない。多くの製品で一律5%だった関税率が高くなったことで、輸入の抑制や通関手続きの遅延など経済への悪影響が懸念されている。

<国内産業保護対象の商品は高税率に>

 2016年の2月から3月にかけて新関税率が導入された。これまでは、イラク戦争後の2004年に連合国暫定当局(CPA)が制定した一律5%の復興税が、事実上の関税として課されていた。新関税率は商品により0%から80%となっている。詳細は、以下で閲覧できる。

 

http://www.mof.gov.iq/Pages/en/Customstarifflawe.aspx.aspx(アラビア語版:財務省ウェブサイト)

http://www.iraq-businessnews.com/wp-content/uploads/2011/02/Iraqi-DRAFT-Tariff-Schedule.pdf(英語版仮訳:「イラク・ビジネスニュース」)

 

 新関税率の導入については2010年に決定され、201621日から運用される予定だった。現地企業にヒアリングを行ったところ、実際の運用開始は若干遅れ、日付は明確でないものの、20165月現在、新関税率が導入されている。現地報道は、法律・規則の制定・施行が遅れがちなイラクにおいて、新関税がほぼ予定どおり導入された背景として、政府が原油価格下落による歳入減に対応しようとしていることを挙げる。

 

 新関税率は、コメや砂糖といった生活必需品については国民生活を保護するため5%と低く設定されている。また、国内産業保護の対象となる製品は相対的に高く設定されている。アルコールやたばこなど奢侈(しゃし)品については、80%の高関税率となっている。

 

 しかし、たばこについては種類によって1525%と低く抑えられていること、イスラム教徒が食べない豚製品の多くは30%だが、種類によっては5%になっていること、ミネラルウオーターが80%であることなど、税率の設定基準が不明瞭だと指摘する現地企業もある。

 

<通関手続きの遅延が深刻に>

 新たな関税率の適用は、イラク経済にさまざまな影響を及ぼすと想定される。まず、多くの製品の関税率が上昇しているため、イラク企業が輸入を控え、国内経済が停滞することが懸念される。

 

 また、税関手続きの遅延も懸念事項だ。イラク南部バスラにあるウム・カスル税関は、もともと周辺諸国と比べて通関にかかる時間が長く、手数料も高額になっていた。現地企業によると、新税率導入により通関手続きの時間がさらに長くなった上、税関の対応に対する不満や新関税導入の周知が徹底されていないことで、一部の現地企業が新関税率での支払いを拒否しており、これまで以上に通関待ちが深刻化しているという。

 

<国境の税関などでは従来の関税率を適用>

 さらに新関税率は、国内の全ての税関で厳密に適用されているとはいえず、イラン国境、クウェート国境、「イラクとシャームのイスラム国(ISIS)」の影響を受けているヨルダン国境などでは、これまでの関税率5%が適用されている。特に、トルコからの輸入が多いクルディスタン地域では自治政府が新関税率の適用を拒否しており、税率差を利用して同地域外で行われていた輸入品の通関を、同地域にシフトさせようとしている。このような事態に対処するため、中央政府はクルディスタン地域からの幹線道路にチェックポイントを設け、新関税率で通関したことを確認する対応を取っている。

 

(水野光)

(イラク)

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