最低賃金を7月から引き上げ、半島部は約11%

(マレーシア)

クアラルンプール発

2016年05月16日

 人的資源省は5月2日、ナジブ首相が2015年10月に言及した、最低賃金を現行の900リンギ(約2万4,300円、1リンギ=約27円)から1,000リンギに引き上げる政策について、7月1日から正式に実施すると発表した。マレー半島部は約11%の上昇となる。これに対して、主要経済団体は現在の経済減速下では解雇の増加につながりかねないとしている。政府は高所得国入りに向けた労務政策を打ち出し始めたが、急激な負担増は投資誘致に逆風となりかねない、との声が出ている。

<最低賃金導入後初めての引き上げ>

 52日、リチャード・リオット人的資源相は、最低賃金引き上げは従業員の人数にかかわらず、家事手伝いを除く全ての民間企業に適用されるとした。政府は、国家賃金諮問評議会(NWCC)が労使双方の意見や生活費の上昇を考慮して提出した勧告を多面的に検証し、予定どおり実施するとの結論を出した。引き上げにより、マレー半島部における最低賃金は1時間当たり4.81リンギ(現行4.33リンギ)、月額では1,000リンギ(900リンギ)に、東マレーシアのサバ州、サラワク州およびラブアン連邦直轄地では4.42リンギ(3.85リンギ)、月額920リンギ(800リンギ)になる(表参照)。

表 現行と2016年7月1日以降の最低賃金

 今回の改定によって、マレー半島部の最低賃金は11.1%上昇する。政府は、最低賃金引き上げはマレーシア人の所得を押し上げるだけではなく、国策である2020年の高所得国入りに向けた経済成長を後押しするとしている。2013年に最低賃金制度が導入されてから初めての引き上げとなるが、人的資源省は最低賃金を経済環境と照らし合わせて2年ごとに見直していくとしている。最低賃金制度に違反した雇用主には、2万リンギの罰金、または5年以下の禁錮が科せられる。

 

<解雇増につながるか、見解にずれ>

 政府の決定に対して、国民や国内最大労組のマレーシア労働組合会議(MTUC)は所得が向上することを理由に賛意を示すが、主要経済団体は反発を強めている。例えば、マレーシア経営者連盟(MEF)は、景気が減速する現況での最低賃金の増額は労働コストを1115%引き上げ、多くの雇用主がコスト削減のために整理解雇に踏み切るだろうとしている。この点に関して、MTUC1,200リンギへの引き上げを要望していたこともあり、それよりも小幅となる今回の改定は事業閉鎖や解雇にはつながらないとして、MEFの見方を否定した。

 

 マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)は2015年来、現下の厳しい経済環境や生産性が賃金水準に見合っていないことなどから、改定を否定はしないものの、導入時期は各企業が賃金改定を行う時期と同じ2017年初頭に延期するように求めてきた。また、現在の最低賃金は月額基本給と定義されているが、これにボーナスや社会保険を除く各種手当を合算するよう提案していた。改定時期の延期要望について、JACTIM418日にポール・ロウ首相府相と面談し、71日からの新たな最低賃金導入は決定事項であり、実施に変更はないとの説明を受けている。

 

<政府は雇用保険の導入も検討>

 201511月にジェトロが実施した「2015年度アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」において、在マレーシアの日系企業が抱える最大の経営課題は「人件費の上昇」(回答企業の63.3%が選択)となっている。今回の最低賃金引き上げはマレーシア人だけでなく、日系企業の多くが雇用する外国人労働者(FW)にも適用されるだけに、その影響は大きい。

 

 政府は最低賃金改定だけでなく、2016年に入ってFWの年次雇用税(レビー)の引き上げ、新規FWの流入凍結を打ち出すなど、企業経営に逆風となる労務政策を相次いで打ち出している。さらに、ナジブ首相が201410月の2015年度予算案発表時に言及した雇用保険の導入も具体化し始めている。ナジブ首相は51日に行われたレーバーデー2016の式典後、労働者の社会保障制度向上のために雇用保険の導入を検討していると明言し、詳細は雇用者、労働者ら全ての関係者と合意できた後に発表すると述べた。政府は高所得国入りに向けた労務環境の整備を目指しているが、企業への急速な負担増はマレーシアの投資魅力をそぎかねないと日系企業の多くは懸念を深めている。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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