人材育成に軍の兵役義務が貢献-イスラエル・ハイテクセミナー開催(2)-

(イスラエル)

テルアビブ発

2016年04月14日

 ジェトロが2月に東京などで開催した「中東のシリコンバレー・イスラエル・セミナー」報告の2回目。イスラエルのハイテクベンチャー業界のエコシステムを支える人材育成システムについて、その独特の教育システムや軍の兵役義務とともに解説する。

<発明をビジネス化するエコシステム>

 これまでフラッシュメモリー、チャットソフトなどの発明を数多く生み出してきたイスラエルでは、今なお、年間約1,000社のベンチャー企業が創業されており、政府は国を挙げてIoT(モノのインターネット)やフィンテック、ライフサイエンスなどの先端技術開発に取り組んでいる。

 

 イスラエル・ベンチャー業界が先端技術開発に優れている背景には、イスラエルには独特の教育システムや軍の兵役義務などにより輩出される人材の育成システムがあること、さらにこれら人材による発明をビジネス化するエコシステムと称される環境、つまりインキュベーターやアクセラレーター施設が多数存在していることがある。

 

5歳から義務教育を開始>

 イスラエルで毎年開催される国際サイバーセキュリティー見本市「サイバーテック」では、国内外大手企業をはじめ、次世代サイバーセキュリティー技術の開発に取り組むベンチャー企業が出展する。ネタニヤフ首相をはじめ国内外の閣僚を迎え、諜報機関関係者、大手IT企業幹部などが訪れるサイバーセキュリティー業界有数の専門見本市だ。

 

 1月にテルアビブで開催された見本市では、企業や業界関係者に混じり、出展ブースを見学する小学生団体の姿があった。一行を引率する教員は、小学4年生の社会見学だと説明した。

 

 イスラエルでは義務教育は幼稚園の年長(5歳)から始まり、小学校入学までには公用語(ヘブライ語)の基本的な読み書きを学習する。小学3年生になると第2外国語(英語)とともに、コンピュータのプログラミングが科目として加わる。

 

 帰宅後、生徒は学校のイントラネットにアクセスして、宿題やドリルをオンラインで解くことで、パソコンの基本的な操作やオンライン検索の知識も身に付ける。

 

<中学から第3外国語、高校卒業時に国家試験>

 イスラエルの学校システムは、小学校6年、中学校3年、高校3年からなっている。中学進学後、アラビア語もしくはフランス語を第3外国語として学習する。

 

 公立高校への入学試験はないが、高校卒業に当たり、主要科目における国家試験に合格する必要がある。「バグルート」(ヘブライ語で「成熟」)と呼ばれるこの国家試験は、大学進学への条件となっている。

 

 近年OECDが行った調査によると、イスラエルの大学進学率は60%を超えている(イスラエル報道発表)が、高校卒業から大学入学まで、通常3年以上のタイムラグが発生する。これは、高校卒業後のユダヤ系イスラエル人に義務付けられている、兵役や軍卒後の海外遊学に伴うものだ。

 

<軍技術部隊ならではのノウハウに注目>

 イスラエル企業に就職する際、面接官から「軍の所属部隊」について聞かれることが多い。この目的は2つあり、1つは、新入社員が兵役を終えていることを確認することにある。

 

 常時戦時状態にあるイスラエルは、入隊すれば、兵器を持たされて人命に関わる任務に就くこともある。また、軍事機密や国家機密に触れることもあるため、軍の人事部は、入隊予定の高校生全員をスクリーニングにかけて、重大な信用問題のある人材は兵役を免除する場合がある。また、重大な病気を持つ人材に対しても、軍が兵役を免除することが多い。

 

 面接官の質問の2つめの目的は、新入社員のスキルの確認だ。

 

 軍の人事部ではさらに、優秀な高校生のスカウトも行っている。各地の学校に敷いてある情報ネットを通じて、スカウトされた生徒は軍で面接や試験を受け、これに合格すると高校卒業後、軍の特殊部隊に配属される。

 

 これらの部隊出身者は、イスラエル社会でも人一倍信用され、学習力やマネジメント能力などが優れているとされる。

 

 研究開発事業を展開するIT企業がとりわけ注目するのは、特殊部隊の1つに当たる技術部隊出身者だ。過去にチャットソフトやファイアーウォール(サイバーセキュリティーソフト)の草分け的なIT技術開発の実績を持つ同部隊は、常に情報通信の先端技術開発に取り組んでおり、兵役を通じて蓄積されたノウハウの活用を狙う企業が多い。

 

 実際、イスラエル国内に研究開発(RD)や製造拠点を置く外資系情報通信企業の関係者からは「製品の開発に当たり、高度な暗号解読のノウハウが必須となるが、唯一これをこなせるのは技術部隊出身者だ」との声が聞かれる。

 

 イスラエルにRD拠点を置くグーグルのローゼンバーグ上級副社長は現地従業員について、「イスラエルの若い人材は、軍の兵役を通じて、団結力、課題解決に取り組む姿勢、技術のノウハウなどのさまざまな面において、他国の若者よりも優れている」と話す。

 

<サバイバル精神がベンチャーの機動力に>

 1948年の建国時から敵国に囲まれ、戦争を繰り返しながら国づくりをしてきたイスラエルは、常に課題を抱えており、サバイバル精神が旺盛で、兵器や軍事開発のみならず、日常生活に関わる問題に対しても国民が自らの手で解決しようとしてきた。

 

 イスラエルが置かれた砂漠地帯で、土地を耕して食物の自給率を高めるという課題に対し、限られた水源を有効に活用した点滴灌漑技術の開発がその一例だろう。点滴灌漑の存在により、イスラエル南部の砂漠でトマトやレタス、ワイン用のブドウ園の栽培が実現している。同システムはイスラエルと国交を持たない中東諸国を含め、世界各国へ輸出されている。

 

 現在、1日当たり平均で23社のベンチャーが創業される背景には、こうした過酷ともいえる生活、外交などの環境が土台となった起業家精神があるだろう。それも、農業だけでなく、IT、バイオテクノロジー、環境技術など、さまざまな分野に広がる。

 

 ただし、豊かになったイスラエル国民は、もはや自国の課題ではなく、世界市場の課題と需要を見越して、技術開発に取り組んでいるところがほとんどだ。

 

 開発した技術を自ら製品化して世界展開するのではなく、技術ごとベンチャー企業を売却しようというのが一般的な考え方だ。これまで多数の実績を持つこれらのベンチャー技術を求めて、日本企業を含む300社以上の外国企業がイスラエルのベンチャー企業に投資するなどして、当地で開発拠点事業を展開している。

写真 都内会場でのセミナーの様子

(高木啓)

(イスラエル)

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