輸入規制のない商品の多様化進むか-中国越境ECの税制改正(2)-

(中国)

上海発

2016年04月20日

 4月8日から適用されている、中国の越境電子商取引(EC)の新税制報告の後編。検疫許認可の必要な商品は今後、一般貿易に移行する一方、500~2,000元(約8,500~3万4,000円、1元=約17円)の価格帯かつ越境EC小売輸入商品リストの「備考欄」に輸入規制条件のない商品は市場拡大の機会が増え、越境EC商品の多様化が進むとみられる。

<越境ECには「備貨」「集荷」「直郵」の3パターン>

 新制度の導入により、中国の越境ECはどう変わるか。まず、越境EC取引の変遷とパターンを整理する。

 

 2008年に起きたメラミン混入粉ミルク事件がきっかけとなって、「代購」と呼ばれる海外からの商品取り寄せが中国人の間に広がった。しかし、「代購」の課税逃れに対処するため、中国税関が20143月に署科函[201359号通達、20147月に総署公告[201456号と総署公告[201457号通達を公布し、輸入越境EC商品に行郵税(入国する個人の荷物や個人の郵便物に対する輸入関税)の適用と、上海市、浙江省寧波市、重慶市など12都市を越境EC総合実験園区に指定した。それ以降、政策の後押しにより、多くの中国のEC事業者が越境ECビジネスを展開した。

 

○認定された輸入越境EC総合実験園区(12ヵ所)

 越境EC実験園区の設置を認定されたのは天津市、上海市、重慶市、安徽省合肥市、河南省鄭州市、広東省広州市、四川省成都市、遼寧省大連市、浙江省寧波市、山東省青島市、広東省深セン市、江蘇省蘇州市の12ヵ所(20161月現在)。

 

 12ヵ所の総合実験園区で展開中の越境ECには、3つのパターンがある。

 

○越境ECのパターン(いずれも税関に対して注文、支払い、物流の電子データを提出する必要がある。税関は、商品小売価格と国内運送費に基づいて課税する)

1)備貨式:中国側の税関監督下の越境EC保税園区の保税倉庫に商品を大量に保管し、越境ECサイト経由の注文に応じて通関手続きと配送を行う。

2)集荷式:海外の保税倉庫に大量に商品を保管し、越境ECサイト経由の注文に応じて海外から空輸もしくは海運で越境保税園区に届け、通関手続きと配送を行う。

3)直郵式:海外のECサイト(例えばアマゾンや楽天)経由の個々の注文に応じて海外からEMSなどの郵送サービスで越境保税園区に届け、通関手続きと配送を行う。

 

<越境ECサイトの品ぞろえに変化も>

 上記3パターンのうち、税制改正の影響が大きいのは、海外商品を越境EC保税倉庫に在庫する「備貨式」といわれている。検疫許認可が必要な越境EC商品、例えば許認可登録のない化粧品、健康食品などは、今後、一般貿易に移行する業態が増えそうだ。また、価格志向が強い消費者は、「備貨式」しか展開しない越境ECサイトから離れていくとみられる。新税制の導入によって、低価格帯越境EC商品の優位性が薄れるからだ。税制改正後の税負担の変化は以下のとおり(表参照)。

表 税制改正による各種越境EC商品の税率変化

 税制の変更は、500元以下の紙おむつなどの日用雑貨と100元以下の化粧品などの販売価格を押し上げる。例えば、1120元の紙おむつを4箱買う場合、以前は480元で買えた(行郵税10%を掛けると48元で税金50元以下の免税対象になる)が、48日以降は行郵税の適用がなくなり、一律11.9%課税されるため、税込み価格は537.12元(120×4120×4×11.9%=537.12元)になり、57.12元の値上がりとなる。

 

 新税制の導入により、越境ECサイトの品ぞろえにも変化が起きることが予想される。これまで越境ECで紙おむつ、粉ミルク、低価格帯の化粧品がよく購入された理由として、税額50元以下の徴収免除により価格優位性があったほか、消耗品のためリピート購入率が高かった。しかし、越境ECサイトの同質化により過度な価格競争が起き、「爆品(中国語でヒット商品の意味)」の利幅がどんどん薄くなってきた。今後、「爆品」よりも利益の取りやすい5002,000元の価格帯の商品のうち、リストの「備考欄」に輸入規制条件のないアパレル、文房具、厨房(ちゅうぼう)用小物家電、陶磁器、デジタルカメラ、インテリア用品、寝具類、玩具類などの販売が拡大し、越境EC商品の多様化が進むとみられる。

 

 中国人の海外旅行が一般的になりつつある中、日本製など海外商品に対する底堅いニーズが今後も継続する見込みだ。中国社会科学院戦略研究院の張斌研究員は、税制改正後も、越境ECの人気は続くとみている。また、多くの中国人消費者にとって、便利な越境ECサービスは手放し難い。国内のECサイトで買い物するのと同じ感覚で注文し、12週間以内に商品が到着する。注文、支払い、物流の履歴は越境ECサイトで追跡可能なため、商品に問題が生じた場合の原因究明や返品が容易になったことも人気の理由だ。

 

 なお、越境ECは新しい国際貿易の仕組みとして実験中という位置付けであり、今後さらに政策が調整される可能性がある。引き続き、関連政策の動向に注意が必要だ。

 

(王淅)

(中国)

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