「逆転の発想で弱点を強みにするビジネス」提案-「パレスチナ・ビジネスフォーラム」を東京で開催(1)-

(パレスチナ)

テルアビブ発

2016年04月06日

 ジェトロなどが主催する「パレスチナ・ビジネスフォーラム」が2月15日、東京で開催された。輸出の振興や輸出先の多様化、投資環境の整備、零細中小企業の競争力強化などのパレスチナ自治政府の取り組みを支援するのが目的だ。その内容を2回に分けて報告する。

<パレスチナ側はフリーゾーンの工業団地をPR

 本フォーラムは、パレスチナ自治政府のアッバス議長一行の訪日に合わせて開かれ、訪日団のメンバーである同自治政府国民経済庁のアビール・オウデ長官、山田美樹外務大臣政務官、平野克己ジェトロ理事らが出席した。アビール・オウデ同自治政府国民経済庁長官のあいさつにつづき、基調講演でパレスチナ工業団地・フリーゾーン庁CEOのアリ・シャース氏が、パレスチナのフリーゾーンに入居する企業に対するワンストップサービスを行うことを強調し、パレスチナ自治区に4つある工業団地について紹介した。

 

 工業団地は、パレスチナ自治区の西岸地域に3つ、ガザ地区に1つある。西岸地域では、北部のジェニン市にドイツの援助によって建設中の「ジェニン工業団地」(943,000平方メートル)、ヨルダン国境近くの東部ジェリコ市に、日本の援助によって設置された「ジェリコ農産加工団地」(14万平方メートル)、中部のベツレヘム市に、フランス政府の援助によって設置された「ベツレヘム工業団地」(195,000平方メートル)があり、ガザ地区には、米国の援助によって設置された「ガザ工業団地」(485,000平方メートル)がある。日本企業が入居したり、入居企業へのビジネスを行ったりする場合、ガザ地区は渡航上の問題があるため、候補は西岸地区の工業団地のうち本格稼働している「ジェリコ農産加工団地」と「ベツレヘム工業団地」になるだろう、と話した。

 

<パレスチナはイスラエルの経済圏>

 個別セッションでは、パレスチナの経済概況についてジェトロ・テルアビブ事務所の奈良弘之所長が説明した。

 

 日本では、パレスチナに対して(1)紛争地域、(2)発展途上国、(3)よく分からない、という印象がある。紛争地域という印象は、日本ではマスコミなどでガザ地区の戦闘状況が大きく報道されるためで、日本企業がビジネスを行う西岸地区をみると、入植地や検問所付近でイスラエル人入植者やイスラエル軍とパレスチナ人との諍(いさか)いがあるものの、大半の地域では身の危険を感じることは少ないことを紹介した。また、発展途上国については、パレスチナはイスラエルの通貨(ニュー・イスラエル・シェケル:NIS)を使い、生鮮食料品をはじめイスラエル製品が入り込んでおり、物価は日本並みであることから、物価の安い国と捉えて日本企業がビジネスをすることは難しいことを指摘した。一方で、女性の社会進出が進み、英語を理解する高学歴な人材が多く、1人当たりGDPをみるとイスラエルの10分の1程度ではあるものの、発展途上国と捉えてビジネスをすべきではないと述べた。パレスチナ中央統計局によると、西岸地区のサービス業の平均日給は、88NIS(約2,640円、1NIS=約30円)であり、優秀な人材をどのように活用するかにビジネスのヒントがあるとした。

 

 貿易制度については、パレスチナ自治区向けの輸出入は物理的にイスラエルを経由し、関税はイスラエルが代理徴収して定期的にパレスチナ自治政府に還付している。パレスチナにおける関税率は、原則、イスラエルと同等で、イスラエルとパレスチナは自由貿易協定(FTA)を締結して、両者間の貿易管理制度の違いによってモノの流れが影響を受けないようになっている。日本企業にとって有望な産業としては、IT産業、製薬(ジェネリック)産業があると紹介した。

 

 イスラエル国内の治安について、現在、最も懸念すべきなのは、イスラエルおよびパレスチナ自治区内での、イスラエル人とパレスチナ人との間の殺傷事件であり、日本人ビジネスパーソンがタクシーなどで移動し、商談する限り影響はないが、出張者が休日などに立ち寄ることの多いエルサレム旧市街については、避けたほうがよいなどと説明した。

 

<日本企業の技術・サービス力を生かすよう提案>

 「パレスチナ民間セクターの課題と可能性」と題して、国際協力機構(JICA)の松澤猛男氏が説明を行った。

 

 最初に松澤氏は日本企業の誤解として、治安、アラブ諸国との関係、イスラム文化での生活を指摘した。西岸地区においては、外国人が危害を加えられる不安がなく、騒乱が起こる場所は特定できることや、パレスチナに入出国するためには、地理上、イスラエルの入出国審査を受けなければいけないが、テルアビブ空港の出入国でスタンプが廃止されたこと、原産地パレスチナとして輸出可能なこと、パレスチナにはキリスト教徒もいるためワインやビールなどのアルコールも入手でき、厳しい戒律のあるイスラム教の国とは違うとした。

 

 パレスチナでJICA事業を実施する際での問題点として、(1)インフラ(発電所、水源、通信)の未整備、(2)人材のミスマッチ、(3)法制度が不透明、という点を挙げた。

 

 インフラの未整備について、電力はイスラエルとヨルダンからの供給に頼っているため、電力コストが思いのほか高いこと、新たに水源を開発する(井戸を掘る)場合はイスラエル政府の許可が必要なこと、スマートフォンの普及率は70%を超えているにもかかわらず、第4世代(4G)の通信サービスに対応できていない、などと述べた。

 

 また、人材のミスマッチについては、優秀な人材が国内に就職先がないため湾岸諸国に流出してしまうこと、大学院卒の多くがエンジニア、医師で、ニーズが高い農業分野では大学が1つしかないこと、また、アジアの新興国と比べると人件費が高いことを挙げた。

 

 さらに、法制度が不透明な点については、特に土地所有に係る規定が複雑なこと、英文化され体系化された情報が限定的で、結局は現地パートナーに頼らざるを得ないこと、また、国際的なマーケット情報が欠如しているため輸出する場合に価格設定などで折り合いをつけるのが難しい、とした。

 

 最後に松澤氏は、「逆転の発想でパレスチナの弱点を強みに」するところに、日本企業の技術・サービス力を生かすことができないか、と提案した。例えば、パレスチナの工業団地に限定して、上水、下水、廃棄物、情報サービスを整備することや、雨がほとんど降らない自然状況を生かした太陽光発電など、マネジメントまでを含めた整備をする。あるいは、歴史的な背景により湾岸諸国に移住している在外パレスチナビジネスパーソンの人材・人脈を華僑のようなネットワークとして利用すること、日本企業のアジアでの工業団地運営のノウハウを生かしたアイデアの提案などを紹介した。

 

(奈良弘之)

(パレスチナ)

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