医療分野の進出企業は人材育成にも協力-「日ロ貿易・産業対話」東京で開催(3)-

(ロシア、日本)

欧州ロシアCIS課

2016年04月11日

 第3分科会では「日ロの医療・製薬分野における協力」が議論された。ロシア政府関係者は、医療における国産品シェアを拡大させる計画を説明した。医療分野の日本企業からは、ロシアでの現地生産だけでなく、人材育成にも協力している事例が紹介された。

<公共調達参入の制限は現地生産を促す狙い>

 ロシアの医療産業を所管する工業商務省製薬・医療産業発展局のアレクセイ・アレヒン次長によると、ロシアでは最近10年間で25の製薬工場が建設され、うち15は外資企業によるものだという。「必須医薬品」の国産品シェアを2015年の72.4%から、2018年には90%に引き上げるため、政府は医療製品や医薬品の公共調達で外国製品の参入を一定条件の下で制限する措置を導入したが(2015年2月24日記事12月18日記事参照)、アレヒン次長は「外国からの輸入を止めるわけではなく、現地生産を促す意図だ」と理解を求めた。工業商務省は、輸入代替やイノベーションにつながる事業に対して資金援助や投資優遇措置を提供している。

 

 ヤロスラブリ州には、武田薬品工業の医薬品工場がある。セルゲイ・ヤストレボフ知事によると、同州では製造業、特に医薬品クラスター形成に重点を置いている。製薬企業では武田薬品工業を含め6社が進出しており、これら企業の協力を得て、地元大学に医薬品人材の養成コースや奨学金プログラムを設けている。ヤストレボフ知事は「卒業生が地元や国内の製薬分野に就職できている」と述べた。

 

 モスクワ州では、ロシアの医薬品の20%、医療製品の12%が生産されている。同州開発公社のチムール・アンドレエフ社長は、同州北部ドゥブナにある特別経済区で、日本のアークレイが2013年から血糖値測定器を生産している事例を紹介し(2013年12月25日記事参照)、企業進出を呼び掛けた。

 

 このほか、産業パークのテクノポリス「モスクワ」の紹介や、民間医薬品研究所の高度技術センター・ヒムラル、バイオ後続品(先発医薬品の特許が切れた後に発売される医薬品)を生産するビオキャドから日本企業との協業の提案があった。

 

<ロシアには医療技術面で課題>

 日本側からは、ロシア市場での取り組み事例が紹介された。東芝メディカルシステムズは日本政府の支援の下、メディカルエクセレンスジャパン(MEJ)と協力して、モスクワにある2つの医療機関に循環器画像診断装置を納入した。ロシアは平均寿命が短く、死因の62%が循環器系疾患とされる。神島誓雄常務は「人口当たりの病院数は十分だが、技術面で課題がある」とし、「2011年以降、設備更新が進んでいるが、使いこなせていない」とも述べ、現地でセミナーを開催して技術の普及を図っているという。

 

 オリンパスは、旧ソ連時代の1968年から消化器内視鏡の販売を開始した。1993年にモスクワに現地法人を設立し、現在はロシアCIS地域に30のサービス拠点がある。田口晶弘取締役専務執行役員はロシア市場の課題として、日本と比べて内視鏡の専門医が少ないことや、結腸がんは進行してからの検出率が高くなっている点を指摘した。2014年に日ロの内視鏡学会が協力協定を締結したことを機に、「この協力に関わっていきたい」と語った。

 

 武田薬品工業の アンドレイ・ポタポフ・ロシアCISエリアヘッドによると、現在はロシアにおいて、2011年に買収したナイコメッドブランドの商品を主に展開しているが、今後は武田ブランド商品も販売していく。ヤロスラブリ州の工場では生産だけでなく人材育成にも取り組んでおり、その1つに「金の製薬人材」プロジェクトがある。同プロジェクトは2016年で10年目となり、全国各地で計1,500人が養成されたという。

 

 日本の医療製品や技術の海外展開を支援するMEJの小松研一副理事長は、ウラジオストクとモスクワでの画像診断センター設立の支援事例を紹介した。

 

(浅元薫哉)

(ロシア、日本)

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