新会社法が5月から施行の見込み、50年ぶりの法改正
(サウジアラビア)
リヤド発
2016年04月13日
サウジアラビア商工業省は2015年11月〔ヒジュラ暦(イスラム暦)1437年1月〕、50年ぶりとなる会社法の大幅改正(以下、新会社法)を発表した。新会社法は、既存の会社法(旧会社法)を全面的に置き換えるもので、外国資本により設立される会社もこの改正法の適用を受けることになる。新会社法は、2015年12月4日に官報への掲載が確認されたため、その150日後となる2016年5月初頭の施行が見込まれている。
<企業統治の発展を目指して旧会社法を全面的に改正>
旧会社法は1965年7月に制定されている。今回の新会社法発表までの50年間に、部分的な改定は行われてきたものの、全面的な改定は初めてとなる。
法務専門家によると、新会社法の制定は、サウジアラビアにおける会社法の現代化および世界基準への歩み寄りを示すもので、同国内での企業統治の発展を目指して制定されたものとしている。
その具体例の1つとして、有限会社(Limited Liability Company:LLC)および株式会社(Joint Stock Company:JSC)の設立に関わる条件が、出資者数や最低資本金などの面で緩和された。これまでは無限責任を負う事業主があまりにも多かったことから、両形態による会社設立のハードルを下げることを通じ、企業統治(株主・出資者の有限責任化による利害関係者の保護など)を進める考え方が反映されているとみられる。
<新会社法では企業の設立条件などを緩和>
旧会社法が全15章で構成されていたのに対し、新会社法は全12章から成る(英文仮訳を基に判断)。章が削減された主な要因としては、旧会社法が8つの会社形態を認めていたのに対し、新会社法では5つに絞られていることが挙げられる。
新会社法における要点は以下のとおり。
(1)有限会社(LLC)関連
○1人以上の出資者により設立が可能(旧会社法では2人以上)。
○法定準備金が資本金の30%に達した場合は毎年の留保を中断することができる(旧会社法における基準は50%)。
○損失が資本金の50%(旧会社法では75%)を超えた際、経営責任者が会社の存続または解散を検討する臨時出資者総会の招集を、同損失確定後90日以内に行わなかった場合、法的に解散させられる。
○出資者が50人を超えた際、1年以内に株式会社に移行しなくてはならない。一定の条件を除き、期限内に株式会社へ移行されない場合は法的に解散させられる。
○会社設立や定款の変更については、商工業省のウェブサイトへの掲載をもって、従来の官報などへの掲載に代えることができる。
(2)株式会社(JSC)関連
○非公開型のJSCについては、出資者2人以上で設立が可能(旧会社法では5人以上)。ただし、政府ならびに政府100%保有の公的法人など、および資本金500万サウジアラビア・リヤル(約1億4,500万円、1リヤル=約29円)以上の企業については1人以上の出資者による設立が認められる。
○最低資本金は50万リヤルとする(旧会社法では200万リヤル)。
○法定準備金が資本金の30%に達した場合は毎年の留保を中断することができる(旧会社法では50%)。
○取締役会(Board of Directors)の人数は最低3人、最大11人とする(旧会社法で規定されていた取締役に対する一定株式の保有条項については撤廃)。
○株主総会(Stakeholders General Assembly Meeting)へは近代的な技術を介した通信手段(テレビ会議を想定)による招集、出席が認められる。
○スクーク(イスラム債)、優先株式、その他の債券の発行が認められる。
○自社株式を購入すること、ならびに同株式を抵当に入れることが認められる。
○企業運営を監視するための監査委員会の設立が義務化される。
○会長職と他の役員職の兼任は認められない。
○損失が資本金の50%(旧会社法では75%)を超えた際に、経営責任者が会社の存続または解散を検討する臨時株主総会の招集を、同損失確定後90日以内に行わなかった場合、法的に解散させられる。
○1株式当たりの価値は10リヤルとする(旧会社法では50リヤル)。
○同一の外部監査役は5会計年度連続で任命することができる。再任命はその後2年間の間隔を空けることで認められる。
(3)その他
○持ち株会社(Holding Company)は、一定条件(傘下企業の株式の50%以上の資本を保持する、社名に「Holding」を冠するなどの条件)を満たす限り、LLC、JSCどちらの形態でも設立が認められる。
○外国企業の支店は商工業省に対し、会計基準を満たし、かつ認可外部監査機関の監査を受けた財務諸表(Financial Statement)を会計年度終了後6ヵ月以内に提出しなくてはならない。
外国資本にとって、新会社法は、LLCやJSC設立条件の緩和や、LLCにおける有限責任範囲の拡充など、企業統治の観点からも歓迎されるべきものとみられる。一方で、外国企業の活動条件については、その投資を認可するサウジアラビア総合投資院(SAGIA)の制度変更に左右される点もあり、SAGIAがこの新会社法施行に伴い、新たな制度変更を発表するか否かは、引き続き注目する必要がある。
(庄秀輝、佐藤由爾/中東協力センター)
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