租税条約締結に向けてセミナー-進出日系企業の要望を受け-

(ペルー)

リマ発

2016年04月07日

 ペルーでは、進出日系企業から日本・ペルー間の租税協定締結を要望する声が多く、「日本・ペルー経済連携協定に基づくビジネス環境整備小委員会」への要望にも挙げられている。この動きを後押しするため、ジェトロは3月22日、現地進出日系企業を対象に租税条約に関するセミナーを開催した。

<租税条約の概要と事例を解説>

 ペルーでは、これまでに2回、ビジネス環境整備小委員会(以下、ビジ環委)が開催されてきた。ビジ環委は、日本・ペルー経済連携協定(EPA)の第13章第195199条で規定された、ビジネス環境の一層の整備を目的として両国政府間に設置された協議の場となっている。第1回会合は日ペルーEPAが発効した201211月に、第2回会合は20149月に開催され、ペルーの投資環境、貿易制度、税制、出入国管理、行政手続きの簡素化、インフラ整備などの分野におけるビジネス環境の改善に向けた意見交換が行われた。第2回会合では、二重課税を回避するための租税条約締結の要望が進出日系企業から寄せられた(2014年10月3記事参照)。これまでに条約の締結に向けた交渉は実現していないが、進出日系企業の要望を受けてジェトロは、租税条約の概要とペルー政府が第三国と締結する租税条約の事例を、ハマダ弁護士事務所の専門家が解説するセミナーを開催した。

 

 セミナーの第1部では租税条約の概要について、第2部ではペルーが締結する租税条約のうち、最初に発効した隣国チリとのケースを取り上げて、税種別ごとに二重課税回避の効果がどの程度あるかについて具体例を示して解説した。

 

 租税条約には、源泉地国の課税権をできるだけ抑え、居住地国で課税権を大きく認めるOECDモデルと、源泉地国の課税権を多く認める国連モデルの2種類があるが、後者は投資が行われる開発途上国での課税権に、より配慮した内容となっている。ペルーはOECDモデルを基本としつつも、国連モデルの概念も取り入れたかたちの租税条約を各国と締結している。ペルー政府はこれまで、20041月にチリとカナダ、20051月にアンデス共同体、20101月にブラジル、20151月にはメキシコ、韓国、スイス、ポルトガルと租税条約を発効させている。

 

<租税条約により税負担が軽減>

 発効済みのペルー・チリ租税条約について、在チリの企業が在ペルー企業から利益を得る場合(利益の源泉地国はペルー)にペルー政府に納める税負担が軽減される事例と、逆に条約で合意する上限税率がペルー国内の税率よりも高いために条約を適用する必要がない2つの事例をみる(表参照)。

 

 前者の事例として、在ペルー企業にサービスを提供する在チリ企業のケースが挙げられる。在チリ企業がペルーにおいてコンサルタント業務を提供し、在ペルー企業から業務収入を得る場合、租税条約発効前はペルー国内で30%の源泉徴収が行われていたが、発効後は源泉地国のペルーでは課税されず、居住地国である本国チリでのみ課税され、チリ企業の税負担が軽減される(表の3.)。他の事例では、在チリ企業がペルーにある子会社にファイナンスを行い、同子会社から利子収入を得る際、条約発効前は源泉地国のペルーで30%の源泉徴収がされていたが、発効後は15%へと税率が半減した(同7.)。ロイヤルティー税30%についても同様に、条約発効後は15%へと軽減された(同4.)。

 

 逆に、条約で合意された上限税率が、ペルーの税法の税率を上回っており、租税条約ではなくペルーの税法上の税率を適用した方が低率のものもある。具体的には、配当税については現行6.8%の源泉徴収が行われているが、条約では、出資比率25%以上の在チリ企業に対して配当金を支払う場合は10%(表の9.)、資本関係がない在チリ企業の場合は15%(同10.)が上限の税率と定められており、条約を適用しない方が低い税率となっているため、6.8%を適用する。このように税種によっては租税条約による減免効果がないケースもある。

 

 在ペルー日系進出企業からは、租税条約が日本とペルーの間で締結されれば、税負担の軽減のみならず、新規投資を行う上で極めて有効なことから、早期の締結を求める声が上がっている。

(藤本雅之)

(ペルー)

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