対ロシア投資は保守的も黒字確保の事例-「日ロ貿易・産業対話」東京で開催(1)-

(ロシア、日本)

欧州ロシアCIS課

2016年04月07日

 ジェトロは2月29日~3月1日に東京で、ロシアNIS貿易会、経団連日本ロシア経済委員会、ロシア工業商務省などと共催で「日ロ貿易・産業対話」を開催した。500人余りの両国政府・企業関係者が出席し、製造業、医療、インフラ分野での協力の可能性について議論が行われた。概要を6回に分けて報告する。1回目は、第1分科会の「日ロ共同プロジェクトの新たな機会と展望」について。

<日ロ貿易額は長期的には増加傾向に>

 第1分科会では日本側から、ロシアが経済パートナーとして重要な位置を占めるのは変わらないとの見方が示され、大手商社が投資の成功例を紹介した。ロシア側は、ロシア極東地域や大規模液化天然ガス(LNG)開発事業への日本企業の参画を呼び掛けた。

 

 経済産業省通商政策局の伊藤伸彰審議官(通商戦略担当)は、日ロ間の貿易額が地理的に近接しているにもかかわらず小さく、2014年と2015年は減少したものの、「長期的に増加傾向にある」とし、日本が輸入する原油、LNGのロシア産比率はそれぞれ8%、10%に達し、重要な位置を占めるとした。

 

 国際協力銀行(JBIC)の谷本正行石油・天然ガス部長はロシア経済の現状について、「原油価格の下落と欧米による制裁が経済に打撃を与えたといわれているが、他の産油国と違い、経常黒字を維持しており、マクロ経済の調整がうまくいっている」と述べた。ルーブル下落やロシア政府が推進する輸入代替政策は「経済多角化のチャンス」とする一方で、同行が日本企業を対象に実施したアンケート調査では、投資有望国としてのロシアの順位が2011年の7位から2015年は12位まで下がっており、「西側からの制裁の影響が大きく、投資家が保守的になっている」と分析した。

 

 日本貿易保険(NEXI)は、2009年にロシア開発対外経済銀行(VEB)、2013年にロシア輸出信用・投資保険庁(EXIAR)と協力に関する覚書を締結した。NEXIの欧州における保険責任残高のうち、ロシア向けが最も大きい。NEXIの小山智理事は「(ロシアから)第三国への輸出支援をできないか検討している」と述べた。

 

 三井物産は、ロシアで15の投資事業に関わっている。目黒祐志CIS総代表兼モスクワ三井物産社長によると、最大の事業で、かつ唯一のエネルギー関連事業でもあるサハリン2(天然ガス採掘)は既に投資を回収済みという。目黒氏は、ロシアが世界銀行がまとめる投資環境ランキング(201511月発表)で51位であることを挙げ、「投資の諸条件はそろってきている」とし、現在でも15事業のうち12事業が黒字で「(投資環境は)実体経済ほど悪くない」とした。この要因の1つとして、14事業の経営者であるロシア人が経済状況に即して対策を取っている点を挙げ、主な投資成功事例として、携帯・公共料金などの集金サービス(QIWI)、セベルスタリとの合弁企業(自動車用鋼板生産)、ソドルジェストボとの業務提携(飼料生産)の例を紹介した。

 

<北極LNG事業への参画を呼び掛け>

 政府系貿易金融機関であるロシア輸出入銀行は、政府系機関のロシア輸出センター、EXIARとともにロシアの輸出促進に取り組む。ドミトリー・ゴロワノフ総裁によると、同行は日本の輸入業者に対してもバイヤーズクレジットを、ルーブル建てのほかドルやユーロ建てでも供与が可能という。

 

 極東発展省のアレクサンドル・オシポフ第1次官は、2015年にロシア極東地域に導入された特区「優先的社会経済発展区域(TOR)」とウラジオストク自由港の現状を紹介した。12TORが稼働済みで、入居者は税の優遇や行政手続きの簡素化が受けられるが、行政による個別支援も検討しているという。ウラジオストク自由港でも税の優遇や行政手続きの簡素化が計画されており、対象地域を現在のウラジオストクおよび周辺の港湾・国境地帯から、「ハバロフスク地方、サハリン州などの港に拡大することを考えている」と説明した。

 

 極東地域のハバロフスク地方では、ハバロフスク市に設置されたTORに日揮の合弁企業が入居し、温室を建設した。温室で野菜を栽培し、現地スーパーなどに出荷するという。ビャチェスラフ・シポルト知事は、同地方に進出する日系企業数を35社、投資額を5,000万ドルとし、「満足できる規模ではない」と述べた。農業以外にも水産加工や木材加工、物流分野の企業を誘致したいと抱負を述べた。

 

 TORのほかに、ロシアには特区として、2005年に導入された特別経済区がある。同特区運営会社のビタリー・ミリャフスキー社長は、現在33の特別経済区に、日本を含む海外29ヵ国の企業約80社が入居していることを紹介した。

 

 独立系ガス生産企業ノワテクはロシア北部ヤマル半島で大規模なLNG開発事業に関わっており、日揮や千代田化工建設も参画している。ノワテクのデニス・フラモフ副会長は世界のLNG市場について、「今後810年は供給過剰になるが、それ以降は価格が上がっていく」と見通した。同社はこれに加え、ヤマル半島の東にあるギダン半島で「北極LNG」事業も計画している。2023年から商業生産を開始する予定で、フラモフ副会長は、日本企業に同事業への参画を呼び掛けた。ヤマルLNG事業と合わせると、生産量は2025年までに3,300万トンに上り、世界市場の7%を占める見込みだという。

 

(浅元薫哉)

(ロシア、日本)

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