日本側は製造業に不可欠な裾野産業育成を強調-「日ロ貿易・産業対話」東京で開催(2)-

(ロシア、日本)

モスクワ発

2016年04月08日

 「日ロ貿易・産業対話」報告の2回目は、第2分科会「製造分野におけるイノベーション:日本企業の経験」について。冒頭、ロシア工業商務省のイワノフ局長代行から、新たに導入された特別投資契約メカニズムが紹介され、日本企業によるロシア企業との共同生産に期待が示された。日本側は、ロシアでの生産活動に当たって現地調達率の向上が課題と指摘し、裾野産業の育成がロシア製造業の発展に不可欠だと強調した。

<工作機械分野への投資促進を狙う>

 工業商務省工作機械・重化学機械製造局のイワノフ局長代行は、国産の工作機械製造分野に注力しており、今後はロボット技術、工業自動化プログラムなどに関する新たな支援プログラムを立ち上げる、と述べた。同省では既に、「特別投資契約メカニズム」を導入している。これは外国企業による工作機械製造分野への投資促進を目的としており、35年かけて部品などの現地調達を進めて現地企業と共同生産する場合に優遇措置を受けられる。同氏は、ロシアの工作機械産業で日本企業との協力実績が複数あることに言及し、「ロシア政府が進める産業政策の効果の表れだ」と締めくくった。

 

 日本側からは、ロシアで生産や研究開発を行っている4社がプレゼンテーションを行った。IHIはモスクワで、ロシアのトラックメーカーのジルと共同で自動車部品を製造している。桑田始常務執行役員は、モスクワ工場の生産効率が新興国ではトップレベルであることを紹介し、「ブラジルやインドをはじめとする第三国への輸出を今後さらに増やしていきたい。そのためにもロシア政府には、自動車産業のみならず、部品産業へのサポートもお願いしたい」と話した。DMG森精機は、2015年にウリヤノフスクで工作機械の工場をオープンし、2016年から本格生産に入る予定だ。進出先として同地を選んだ理由について、森雅彦社長は「航空分野などの産業集積があり、サプライヤーを見つけやすそうだった。今後、部品の一部は現地化していきたい」と述べた。

 

<ロシア側は「現地化」と「輸入依存度の低減」に関心>

 アフトワズ・ルノー・ニッサン パーチェシングオーガニゼーションの牧野英一ローカリゼーションディレクターは、通貨ルーブル安が長期化する中、ロシア製品の価格競争力は高まっているとし、「ロシアからの輸出を検討すべきだ」と強調した。そのためには部品製造などへの一層の投資が必要だが、自動車部品製造に特化するのは国内の自動車生産台数を考えると現実的ではない、と指摘。また、ロシア国内で自動車・部品会社のみならず、家電や食品、機械など、他の産業分野向けの部品メーカーとの協業を考えていかなければならない、とした。さらに牧野氏はロシア政府に対して、「工業商務省内に専門家チームを設置し、ロシアでの裾野産業の発展・育成について完成車メーカーや部品メーカーが一堂に会して協議できるような体制を構築してほしい」「自動車産業支援のアイデアを部品産業にも取り入れてほしい」などと提案した。

 

 日本側から最後に発表したパナソニック・ロシアの中村正人副社長は、ロシア版シリコンバレーといわれる「スコルコボ」での活動を説明。「日本の要素技術やハードウエアと、ロシアが得意とするソフトウエアの融合が図れる」として、スコルコボでの活動のメリットを紹介した。

 

 ロシア側からは、機械メーカーの社長らが登壇した。スタンコプロムのドミトリー・コソフ社長代行は「ロシアの工作機械分野における最大の課題は現地化(ローカリゼーション)だ」とし、日本企業と共同でロシアに近代工場を設立したい、との期待を示した。既に滝澤鉄工所など日本企業との業務提携の実績があるコブロフ電機機械工場のウラジミル・レベジェフ社長も「輸入依存度の低減が課題」として、今後、日本企業との業務提携を続けていく中で「メード・イン・ロシア」の製品を製造していきたい、と述べた。

 

(島田憲成)

(ロシア、日本)

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