天津自由貿易試験区、制度構築は進出企業とともに-設立から1年を前に関係者に聞く-

(中国、日本)

北京発、中国北アジア課

2016年04月04日

 中国(天津)自由貿易試験区は、3つのエリアで構成される。港に近く水上運輸・物流、貿易、船舶などのリースなどサービス業の発展が期待される「天津港東疆」、空港に隣接し航空宇宙などを重点発展産業とする「天津空港」、そして濱海新区の都市の中心にあり金融イノベーションなどのサービス業を重点的に発展させる「濱海新区中心商務」。間もなく設立1年を迎える天津自由貿易試験区の濱海新区中心商務エリアへの企業進出状況や政策について、同エリア管理委員会投資促進局の陸斌氏と梁●(女へんに青)氏に聞いた(2月29日)。

<リースなど金融業の進出が目立つ>

問:企業の進出状況は。

 

答:2008年に設立された濱海新区中心商務エリアは、20154月の天津自由貿易試験区の設立とともに同試験区に組み込まれた。2015年に濱海新区中心商務エリアに設立された企業は5,811社(注)に上り、その数は20112014年の4年間の設立企業数を上回る。うち試験区が設立された2015421日から年末までの設立企業は5,078社、月平均600社強になり、試験区設立前と比べて増加している。

 

 5,811社の内訳を業種別にみると、濱海新区中心商務エリアが金融のイノベーション推進を担っていることから、金融が900社超と多い。中国銀行業監督管理委員会が中国で初めて設立を認可した民営銀行5行の1つである金城銀行、リース業の中信金融租賃、中国最大の市場公募債管理企業の天弘基金、台湾企業による中国大陸初のベンチャーキャピタルの元富証券創投基金などが代表的な企業だ。また、港が発達し、資金需要の大きい飛行機や船舶などの大型設備メーカーが集積している天津は、中国の中でもリース業の誕生が早かったことから、金融の中でもリース業の進出が目立つ。

 

 他の業種では、貿易、越境電子商取引(EC)、インターネット関連も比較的多く、中国の大手企業ではネットサービスの騰訊(テンセント)、ネットショッピングの京東商城、不動産物件情報サイトの捜房網などが進出している。外資系企業の構成比は10%台で、最近の話題としては、米国のジュリアード音楽院が20169月に海外初の分校建設を開始し、20189月の開校に向けて修士課程の120人を世界から募集する計画がある。

 

<イノベーション創業に優遇政策>

問:特徴ある政策は。

 

答:天津試験区には、中韓を含む北東アジアの発展、京津冀地域(北京市、天津市、河北省)の共同発展という戦略的な位置付けがあるものの、上海、広東、福建の試験区と同一のネガティブリストを用いて外資系企業の参入を管理している点で、自由貿易試験区としての政策は他の3つの試験区と基本的に同じだ。ネガティブリスト掲載業種以外は、従来1ヵ月ほど要していた商務部門による設立認可手続きに代わり、中国語で「備案」と呼ばれる届け出により、商務部門による批准と市場監督部門による組織機構コードの付与が3営業日以内に完了する。

 

 濱海新区中心商務エリアの特徴ある政策は、エリアに設けられた中国初の「双創特区」〔創新(イノベーション)創業特区〕で提供されている(表参照)。優遇政策には、補助金の支給や専門サービスの提供などがあり、条件を満たす企業が直接申請できる。

<越境ECをビジネスチャンスに>

問:日本企業のビジネスチャンスと試験区の今後の展望は。

 

答:天津は、越境EC総合試験区の1つに認められた。具体的な活用方法はこれから整備されていくが、プラットホームが構築されれば、それを活用した貿易ができる。先を見越して、中心商務エリアの中国企業である闊世保達科技と日本の物流会社が越境ECで協力することになった。日本の物流会社の日本、北米、欧州の物流網を利用し、ユーザーの物流を試験区に集中させ、闊世保達科技が通関と中国内の物流を行う。試験区内には輸入商品保税展示取引ゾーンや越境EC体験店があり、日本商品の人気は高い。

 

 日本には優れたネット関連企業があるので、双創特区の環境を活用してほしい。また試験区に進出する企業が増えており、こうした進出企業にサービスを提供する金融機関などにも発展の余地がある。

 

 試験区の政策や制度はまだ完備していないが、進出企業が増えれば、企業のニーズに応じて政府も政策を調整することになる。

 

(注)天津自由貿易試験区が設立された2015421日から1231日までの同試験区全体への新規登記事業者数は、前年同期比2.1倍の14,105に上る(同試験区記者発表2016122日)。

 

(宗金建志、日向裕弥)

(中国、日本)

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