外国人労働者の年次雇用税を引き上げ-製造・建設業の上昇率は48%、新規受け入れを凍結-

(マレーシア)

クアラルンプール発

2016年04月05日

 マレーシア内務省は3月18日、外国人労働者の雇用に際して発生する年次雇用税(レビー)の引き上げを発表した。適用はマレー半島部のみで、同日から発効している。製造業と建設業では改定前と比較して上昇率は48%に及ぶ。政府は外国人労働者依存の産業構造から脱却するために、新規の受け入れを凍結するなど矢継ぎ早に政策を打ち出しているが、流入制限政策の整合性が取れない場面も見受けられる。

<マレー半島部のみで実施>

 レビーの金額は、カテゴリーIとカテゴリーIIで差異がある。カテゴリーIに属する製造業、建設業はこれまでの1,250リンギ(約36,000円、1リンギ=約29円)から318日以降は1,850リンギに、サービス業は1,850リンギに据え置かれた(表参照)。カテゴリーIIに属するプランテーション、農業のレビーはそれぞれ590リンギ、410リンギから640リンギに上昇した。なお、家事手伝いは410リンギのままで、変更はなかった。本改定はマレー半島部のみで実施された。

 当初、レビーの改定は21日に予定され、この中で、内務省は改定額をカテゴリーI2,500リンギ、カテゴリーII1,500リンギと発表した。この場合、製造業などはレビーの支払額が2倍に達することで、各方面から負担が大きすぎるなどの反対意見が出た。例えばマレーシア日本人商工会議所(JACTIM)は、急激な負担増は日系企業の投資縮小・撤退につながりかねないとの意見書を政府に提出した。各関係団体の猛反発を受けて、政府はレビー改定額の再度の見直しを進めていた。

 

<外国人労働者依存からの脱却図る>

 セクター間で増額幅に差があることに関して、内務省のアルウィ・イブラヒム事務次官は「セクター内で支払われる給与水準に違いがあることに基づく」と述べた。さらに、同次官は「改定額は28の業界団体などとの調整を経た上で決定した」として、その金額決定過程の正当性をアピールするとともに、今回の改定が経済成長に悪影響を及ぼすものでなく、政府が志向する労働集約型産業に従事する外国人労働者を減らす目的に合致した施策だ、とその意義を強調した。政府発表では、インドネシア、ネパール、バングラデシュを中心に合法的な外国人労働者は20161月末時点で208万人存在し、これはマレーシアの労働力人口の約15%に該当する。さらに、正確な人数は把握されていないが、約400万人の非合法労働者がマレーシアに滞在しているといわれる。

 

<政府の外国人労働者政策は混迷>

 政府は2020年の先進国入りを目指して、産業構造を労働集約型から資本集約型に転換しようとしている。その意味では、労働集約型産業の外国人労働者を削減することを目的とした今回のレビー引き上げは理にかなっているといえる。しかし、政府の外国人労働者政策は迷走している。例えば、外国人労働者削減の強い意向を持つにもかかわらず、政府は218日にバングラデシュ政府と今後3年間で150万人を受け入れる覚書に調印した。翌19日になって、バングラデシュからの外国人労働者受け入れの凍結を発表し、マレーシアと近隣国の間で混乱が広がっている。

 

 業界団体も、人手不足解消の切り札として外国人労働者は貴重な人員としながらも、大量の流入には明確な賛意を示しにくい。また、労働組合や国民は職を奪われる懸念や治安の悪化から、反対の声を上げる。反発の声が強いこともあって、現地紙「スター」(312日)によると、政府は311日に新規の外国人労働者受け入れの凍結を決定した。ただ政府は、凍結措置が一時的なもので、バングラデシュ政府との取り決めとも矛盾しない(同紙317日)として、政策の一貫性を訴える。いずれにしても、産業高度化を急ぐ政府は、今回のレビー引き上げと併せて、外国人労働者を数多く雇用する企業には負担が増す政策を矢継ぎ早に打ち出し始めている。

 

(新田浩之)

(マレーシア)

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