入植地での活動は企業イメージ損なうリスクも-イスラエル・ハイテクセミナー開催(1)-

(イスラエル)

テルアビブ発

2016年04月13日

 ジェトロは2月に、「中東のシリコンバレー・イスラエル・セミナー」を開催した。セミナーでは、イスラエルの経済概況やハイテクベンチャー業界のエコシステムについて紹介し、日本企業の関係者ら約120人が参加した。セミナーの内容を3回に分けて報告する。1回目は「イスラエルビジネスの慣行・留意点」について。

<「まず行ってみる」から始まるビジネス>

 ジェトロは210日から15日にかけて、イスラエルの一般経済概況やハイテクベンチャー企業のエコシステムについてのセミナーを、大阪、福岡、東京の各地で開催した。これらは、外国企業との共同研究や製品開発などを目的としたライセンス契約締結に向けて各種支援を提供する「ジェトロ・イノベーション・プログラム(JIP)」をイスラエルで実施することを踏まえたものだ。

 

 セミナーではまず、イスラエル国内の治安について、現在、最も懸念すべきなのは、イスラエルおよびパレスチナ自治区内での、イスラエル人とパレスチナ人との間の殺傷事件で、日本人ビジネスパーソンがタクシーなどで移動し、商談する限り影響はないが、出張者が休日などに立ち寄ることの多いエルサレム旧市街の視察については、避けた方がよいことなどを説明した。

 

 アラブボイコットについては、既に組織的なアラブボイコットは形骸化しており、実態を正確に表現するのならば、時折、単独にアラブ諸国で「アラブハラスメント」的な事案が散見されるにすぎない。イスラエル企業と取引することや技術提携することについて、各社が消費者などに積極的にアピールしない限り、問題はないだろう。「粛々」とビジネスを進めることがポイントだ。

 

 しかし、インフラ大型案件などでは、日本に限らず欧米企業も積極的に動いていない。さらに、日本企業が認識すべきリスクとして、入植地ボイコットがある。特に、欧州で「入植地」の活動に対する心理的抵抗が強くなっており、日本企業の入植地での活動や、入植地で活動している企業との取引は、大きな企業イメージ損傷リスクになり得ることについて指摘した。

 

 出入国に際しても、空港では、パスポートにイスラエルに出入国したことを示すスタンプは押さずに、カードが即時発行されるため、執拗(しつよう)に国境審査官に「NO STAMP」と依頼する必要は全くないとした。また、イスラエルのスタンプが押されたとしても、国交のあるエジプト、ヨルダン、トルコには問題なく渡航でき、国交のないドバイについても、問題なく出入国が可能だと説明した。

 

 また、イスラエルへの出入国について、アラブ諸国に出入国した記録があっても問題ないが、国境審査官にはその渡航履歴について、かなり細かく質問されることがあるので、心の準備をしておく必要があること、また、アジア諸国でも、マレーシアやインドネシアなどへ渡航歴がある場合も同様であることを紹介した。

 

 欧米での事業が伸び悩んでいるイスラエル企業は、現在アジアへの関心を高めており、昨今、茂木敏充経済産業相(当時)や安倍晋三首相が相次いでイスラエルを訪問して以降、イスラエル政府が関西に商務部を新設するなど、イスラエル側で日本企業とのビジネス開拓への期待が高まっていると話した。

 

 「中東に位置するイスラエルは治安上のイメージが良くないものの、1人当たりのGDPは日本とほぼ同水準で、ビジネス環境も先進国並みだ。まずはイスラエルを訪れ、その目で確認することを勧めたい」と強調した。

 

<課題は決断スピードの違いとニーズのミスマッチ>

 日本とイスラエルの企業文化やニーズの違いによって生じる課題は、大きく2点ある。まずは、「決断のスピードの違い」だ。イスラエル企業は、大ざっぱではあるものの「即決」を求める短期決戦型。一方で、日本企業は、長期を見据えて考えるため「じっくり調べて」判断する。実際のビジネスの現場では、イスラエル企業は、日本企業の決断の遅さに我慢できず、他国の企業にビジネス案件を持っていってしまうこともある。イスラエルで活動する邦人駐在員は、「本社に伺いを立てなければならないことも多く、イスラエル企業のスピード感と日本企業のスピード感の狭間にある。時には、本社への説明に要する時間でビジネスを失うことすらある。イスラエル人にとっては、例えば、大手日本企業の経営層がイスラエルに来るからには、その場で商談が成立するのではないかという期待が大きいが、現実にはそうはいかない」と企業文化の違いを指摘した。ただし、日本企業側からイスラエル企業に、ビジネスのレスポンスに時間がかかる日本側の事情(ビジネス慣行)を丁寧に説明すれば、理解してくれる場合もあるという。

 

 「ニーズのミスマッチ」もある。日本側は、イスラエル企業の「技術」だけが欲しいが、イスラエルのベンチャー企業の多くは、「さらなる成長、研究開発のための出資を日本企業にしてもらいたい」とか、「丸ごと会社を買ってもらいたい」と考えている。しかし、日本企業(特にメーカー)からは、「新興企業に多額の投資をするのだったら、そのお金で製造設備を更新した方が、成果が目に見える」とか、「そもそも出資するというスキームがない」といった声も聞かれる。このように、イスラエルのベンチャー企業のユニークな技術とそれを実用化させるプロセスの間には大きな隔たりがある。それを埋めるものが資金(イスラエルベンチャー企業への出資)だが、これが日本企業にとって大きなリスクになることも多く、判断を難しくしているとした。

 

(奈良弘之)

(イスラエル)

ビジネス短信 1bddc5dade05a257