ロシアでの現地生産には海外からの機器調達が不可欠－「日ロ貿易・産業対話」東京で開催（6）－

＜ルーブル安でロシアでの生産コストが半減＞

　ロシア工業団地協会特別分科会の第1部では、ロシア工業団地協会や政府機関代表が現在のトレンドなどについて発表した。デニス・ジュラフスキー・ロシア工業団地協会専務理事は、ルーブル安により工場建設費や生産コストが半減し、ロシア国内で生産・輸出することが大きな魅力となっている今がロシア進出のチャンスと述べた。同氏によると、現地生産を行うには、a.工業団地（民間、政府系）の活用、b.特別経済区（SEZ）の活用、c.独自に実施、の3つのやり方があり、SEZの利点は税制面などでの優遇措置が豊富な点だが、投資契約締結などの義務が生じるという。一方、地方政府が運営する工業団地の優遇措置はSEZよりは少ないが、契約締結などの義務が比較的少なく、運営会社のサービスが幅広い点にあるとした。ロシア政府が農産品の輸出拡大を目指していることを踏まえ、農業に特化した工業団地設立も検討されているという。

　アレクサンドル・オシポフ極東発展省第1次官は、ウラジオストク自由港をはじめとする極東の「優先的社会経済発展区域（TOR）」での行政手続き簡素化や免税などの優遇措置について説明したほか、輸出の観点からアジア太平洋地域に隣接する極東の立地の良さを強調した。ビクトル・カラシニコフ・ハバロフスク地方副知事は、ハバロフスク市とコムソモリスク・ナ・アムーレ市のTORについて紹介。コムソモリスク・ナ・アムーレには地場大手航空機メーカー・スホイの工場が立地し、航空機関連企業の参入が期待されているという。また、ハバロフスク地方で日本企業との協力の可能性がある分野として、魚加工や木材加工の会社設立、ロジスティクスセンターの整備、農業分野を挙げた。

　このほか第1部では、ロシアNIS貿易会モスクワ事務所の中居孝文所長がロシアの経済情勢について、工業商務省のオシマコフ戦略発展・プロジェクト管理局長が現地生産の関連制度について、運営会社「特別経済区」のマリチェフ・プロジェクト管理・投資誘致局長がロシアにおけるSEZの概要について、それぞれプレゼンテーションを行った。

＜特別経済区の特徴や優位性を訴え＞

　第2部では工業団地やSEZを運営する開発公社や運営企業代表がプレゼンテーションを行った。スベルドロフスク州の工業生産型SEZ「チタンバレー」のアルテミー・クィズラソフ社長は、チタンバレーには鉄鋼や機械製作分野の企業が入居しているが、航空分野に強みがあり、フランスのエアバスやカナダのボンバルディア向けに供給されていると特徴を述べた。

　ロシア南部アストラハンにある工業生産型経済SEZ「ロータス」のセルゲイ・ミルシキン社長は、同SEZとアストラハンの地理的優位性を訴えた。アストラハンはアジアと欧州を結ぶ主要輸送路上に位置するだけでなく、経済制裁が解除されたイランにも近いため重要性が増しているという。また、ボルガ川に面する同SEZには5,000TEU（20フィートコンテナ換算単位）の船舶が入港できると説明した。ロータスは造船分野を重視しており、2030年までに1,000隻の船舶生産を目指す一方、現地生産にはエンジンや舶用クレーン、スタンスラスター、ウインチ、ナビゲーションシステムなどの舶用機器を外国企業から調達することが不可欠と伝えた。

　先崎正文・日立建機ユーラシア製造社長は、モスクワとサンクトペテルブルクの間に位置するトベリのラスロボ工業団地への進出により運搬費を削減できたことや、ガス供給や人材確保の面でトベリ州から支援を受けたことなどを工業団地進出のメリットとして述べた。一方で、ロシアにおける外資系建設機械業が抱えるリスクとして、原油安とルーブル安のほか、建設機械に対するリサイクル税の課税などロシア政府の保護主義的な政策を挙げた。

　このほか、ウリヤノフスク州開発公社のワシン社長とモスクワ州開発公社のアンドレエフ社長が、それぞれの州におけるSEZや工業団地の概要や諸制度について、ハイテク工業団地テクノポリス「モスクワ」のゴルバトワ副社長が同工業団地の概要についてプレゼンテーションを行った。

（田端義明）