親子企業間の輸出入取引の審査を緩和

(インド)

ニューデリー発

2016年03月07日

 企業の親子間の輸出入取引に関する審査が緩和された。審査対象となる取引の絞り込みや詳細説明要求があった場合の回答猶予期間の拡大などにより、輸入環境が改善された。ビジネス環境整備の第一歩と歓迎されているが、実務面での確実な運用が求められる。

<進出企業に負担強いるSVB制度>

 インド財務省・中央物品関税局は、企業の親子間取引に関する輸入者の手続きを改善するため、オンライン化、預かり金の軽減、除外項目の拡大などを盛り込んだ通達(201629日付)を発表し、即日施行した。煩雑な通関手続きは、ジェトロが201512月に発表した「2015年度アジアオセアニア進出日系企業実態調査」でも、インド進出日系企業における経営上の問題点として挙がっている。今回の改正は、ビジネス環境の改善に取り組む現政権の方針が反映されたものと受け止められている。

 

 インドに所在する会社が、親会社など資本関係のある海外関連会社から物品輸入する際、SVBSpecial Valuation Branch)と呼ばれる制度において、取引価格の証明が求められる。これは、関連会社間で実際の金額よりも低い価格で取引されることによる、関税収入の減少を防ぐためだ。関税評価額であるCIF価格の妥当性に関し、関税当局から輸入者に詳細な説明が求められ、輸入者は各種書類を提出してCIF価格の正当性を説明する。一度SVB制度によって承認された取引は3年間有効となる。

 

 インドでは、通関前の輸入貨物は保税区域内で保管されるが、その保管料として取引価格の1%を預託金(デポジット)として預け入れなければならない。SVB制度においては、輸入者は当局から要求された詳細説明に30日以内に回答しなければならず、30日を過ぎるとデポジットが取引価格の5%に跳ね上がる。関税当局は回答書を受け取り次第、速やかに適正価格か否かの判断をすることになっているが、企業にさらなる詳細説明を求めるなど、結果的に判断までに数ヵ月を要する場合がある。中には審査に半年以上かかったケースや、返金が前提のデポジットであるにもかかわらず、何度も督促しなければ容易に返金されないケースもあり、輸入者は不要な負担を強いられていた。

 

<状況改善に期待、運用の監視も必要>

 SVB制度の主な改正点は以下のとおり。

 

1)詳細説明への回答期限が従来の30日以内から60日以内に拡大。また、期間内に回答すれば、追加の貨物保管料のデポジット支払いを不要とする。ただし60日を過ぎても輸入者が回答しない場合は、取引価格の5%のデポジットを課す。

 

2)サンプルや見本、中古機械など同一会計年度における250万ルピー(約425万円、1ルピー=約1.7円)以下の取引はSVB審査の対象外とする。

 

3)権限の明確化と審査期間の短縮を目的に、裁量の範囲が広かった関税当局の権限を制限し、仲裁機関の判断を尊重する。

 

4SVB承認を得た取引の3年後の更新申請を部分的に免除する。更新手続き中で、かつSVB審査が保留されていた取引は、輸入者が前回承認時と同様の正当な親子間取引である旨の宣誓書を2016531日までに関税当局に提出すれば、以降の更新手続きは一切不要とし、デポジットも不要とする。

 

 インドで輸入手続きを請け負う日系物流企業担当者は「工場立ち上げ時の機械輸入など、船積み額が大きい場合は、保管料のデポジットによる負担が大きい。輸入通関の現状は、インボイスに記載の輸出者名と輸入者名が異なっていれば、資本関係がある親子間の取引であっても通常の輸入取引と見なされる場合が多く、SVB審査が行われないのが実態」と話す。また、地場コンサルタントは「今回の改正は、モディ政権の進めるビジネス環境改善のステップの1つ」と評価する。日本など他国も同様のシステムを導入しているが、そもそも移転価格税制(注)という直接税の内容について、(間接税である関税を取り扱う)税関当局がその取引ごとの適正価格に介入すること自体不自然であり、制度そのものを疑問視する声もある。改正は望ましいが、その内容が確実に運用されるか否か、監視が必要だ。

 

(注)資本や人的に支配関係にない独立企業間で取引される価格(独立企業間価格)と異なる価格で、支配関係にある外国会社と取引が行われた場合、その取引価格が独立企業間価格で行われたものとして、課税所得額を算定する税制。

 

(大穀宏)

(インド)

ビジネス短信 c81999ea06cec9d3