2020年までに法人税率を17%に引き下げ-2016年度予算案を発表-

(英国)

ロンドン発

2016年03月29日

 ジョージ・オズボーン財務相は3月16日、2016年度(2016年4月~2017年3月)予算案を発表した。法人税率を2020年までに20%から17%に引き下げるのをはじめ、キャピタルゲイン税の引き下げ、低所得者層に対する所得税の軽減など、中小事業者や労働者層の負担軽減を図る一方、税逃れへの批判が高まる多国籍企業への課税強化や、清涼飲料に対する砂糖税の新規導入などで歳入を増やし、2019年度の財政黒字化を目指す。

2016年と2017年の成長率見通しを下方修正>

 予算責任局(OBR)は、2015年の実質GDP成長率は2.2%で、英国経済は他の先進国と比べ良い状態にあると発表した。一方で、金融市場は不安定で、先進諸国の生産性は低く、世界経済は低成長が見込まれていることから、英国のGDP成長率見通しを2016年は2.4%から2.0%に、2017年は2.5%から2.2%に、いずれも201511月発表の予測値から下方修正した。

 

 ただし、この予測値は623日に実施される英国のEU残留か離脱かを問う国民投票の結果、残留した場合の予測で、オズボーン財務相は議会演説の中で「EU残留が英国経済にとってベストの選択肢だ」と訴えた。

 

 2016年度予算案の歳出は前年度比3.9%増の7,720億ポンド(約1235,200億円、1ポンド=約160円)、歳入は7.3%増の7,160億ポンド。歳出の内訳をみると、社会保障分野が3.4%増の2,400億ポンド、保健分野が2.8%増の1,450億ポンド、教育分野が3.0%増の1,020億ポンドとなっており、住宅の整備や2015年に大規模な被害をもたらした洪水対策のため、住宅・環境分野に21.4%増の340億ポンドが盛り込まれている(表参照)。一方、歳入については、タックスヘイブンを経由した税逃れへの批判が高まっている多国籍企業への課税強化や、カウンシルタックス(家屋の資産価値によって課される地方税)の増額などにより、前年比7.3%増の7,160億ポンドを見込む。

<予算案の4本柱に基づき多様な政策>

 オズボーン財務相は、2016年度予算案の「財政の健全化」「労働者の応援」「ビジネスと企業の支援」「英国全土にわたる機会創出」の4本柱に基づくさまざまな政策を発表した。主な政策は以下のとおり。

 

○財政の健全化

・各省予算の効率化により、追加で35億ポンドの予算を削減。

・国民総所得の0.7%のODA予算を確保。

 

○労働者の応援

・個人所得税の基礎控除額の引き上げ:2016年度から11,000ポンド、2017年度から11,500ポンドへと引き上げ。

・高税率の適用される最低所得額の引き上げ:2016年度から43,000ポンド、2017年度から45,000ポンドへと引き上げ。

・ガソリン、たばこ、酒類の税率の据え置き。

・清涼飲料に対する砂糖税の導入:清涼飲料業界に対し、砂糖の含有量が5グラムを超える清涼飲料の製造者および輸入業者に対し課税。

・教育の改革:2020年までにイングランドの全ての学校をアカデミー(国立)ないしフリースクール(国からの出資だが、特定の企業・団体により設立)への変更、授業日の増加、スポーツ教育の強化など。

 

○ビジネスと企業の支援

20204月までに法人税率を20%から17%に引き下げ。

20174月から中小事業者に対するビジネスレート税(不動産の商業利用にかかる税金)の減免。

20164月からキャピタルゲイン税率の引き下げ。

 

○英国全土にわたる機会創出

・リーズとマンチェスターを結ぶ高速鉄道(HS3)の計画(6,000万ポンド)。

・ロンドン南西部と北東部を結ぶ鉄道計画(Crossrail2)の継続(8,000万ポンド)。

・災害時や難民のための仮設宿舎の建設(1億ポンド)。

・第5世代移動通信システム(5G)計画の推進。

 

<障害者対策めぐり労働・年金相が辞任>

 2016年度予算案について、英国産業連盟(CBI)は「産業界の声をよく聞き負担を軽減してくれた」とのコメントを発表し、ビジネスレートや法人税の低減、インフラ整備などの政策を高く評価した。

 

 しかし、2016年度予算案における障害者に対する社会保障費の削減に反対し、イアン・ダンカンスミス労働・年金相が318日に辞任した。これを受け、最大野党の労働党は「保守党の進める残酷な財政削減で、37万人の障害者が1人当たり年間3,500ポンドの補助金を失う」と批判、保守党内部からも社会保障費の削減はモラルに欠けると反対意見が噴出した。その結果、322日の議会でオズボーン財務相は、障害者に対する社会保障費削減を行わないと表明、既に議会が承認した以上の社会保障の削減は行わないと述べた。政府は見直しに伴い発生する44億ポンドの歳出増をどのように穴埋めするか再検討を迫られている。

 

(佐藤丈治)

(英国)

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