制裁解除で広がるビジネスチャンス-「イラン・インフラセミナー」を東京と大阪で開催-

(イラン)

ものづくり産業部、テヘラン発

2016年03月25日

 日本との投資協定が締結されたことを受け、日本企業のイランでのインフラビジネスが注目されている。ジェトロは3月10日に東京、11日に大阪で、中東ドバイから講師を招き「イラン・インフラセミナー」を開催した。インフラ市場やエネルギー関連プロジェクト、制裁解除後の動向や現地企業との取引上の注意点などについて、セミナーの内容を報告する。

<中東の専門家4人を講師に招く>

 ジェトロはセミナーに、中東のインフラ分野で定評ある情報分析会社MEEDと、イラン専門チームを有するドバイのClydeCo国際法律事務所から計4人の講師を招いた。東京では約200人、大阪では約100人の企業関係者が参加した。

 

 セミナーでは、MEEDのリチャード・トンプソン氏(中東経済誌「MEED」編集長)からイラン市場の概況について、エドワード・ジェームス氏からは現地で注目されているインフラプロジェクトについて、ClydeCo国際法律事務所のパトリック・マーフィー氏からは対イラン経済制裁の概要、ジョナサン・シルバー氏からはイランでビジネスを展開する際の法的手続きの注意点について、以下のような講演があった。

 

<インフラの老朽化で高まる更新需要>

 欧米などによる経済制裁が116日に解除されたイランでは、貿易・投資協定の締結や、他国からの支援、投資ミッションなどが活発になっている。経済制裁中の2014年でも、イランのGDPは中東地域においてサウジアラビアに次ぐ約4,000億ドルを記録しており、制裁が解除されたことで大幅な上昇が期待されている。また、人口も約7,850万人とエジプトに次ぎ、30代以下の若年層も多いことから内需拡大が見込まれている。

 

 イランの最大の魅力は石油(埋蔵量世界4位)とガス(1位)であり、輸出の6割が石油部門となっている。また、非石油部門の大半も石油関連製品であり、輸出のほとんどが石油関連といえる。

 

 MEEDの調査によると、インフラプロジェクト市場は、経済制裁が始まった2010年から縮小傾向にあり、約56%がガス分野のプロジェクトだった。今後の計画では化学、電力、交通分野のプロジェクトがそれぞれ20%を占めており、相対的にガス分野の割合が低下していくと考えられる。インフラプロジェクト市場には約8,000億ドルの投資が見込まれており、うち3,500億ドルは海外からの投資とされている。

 

 中でも現地で注目されているインフラプロジェクトとしては、以下の5分野が挙げられる。

 

1)石油(石油の回収設備など)、ガス関連分野〔液化天然ガス(LNG)輸出施設の増強など〕

2)石油化学分野

3)採鉱分野

4)電力関連分野

5)交通関連分野(鉄道、都市鉄道、港湾、空港など)

 

 一方で、経済制裁に伴い国内では高インフレ、高い失業率、通貨安の問題を抱えており、経常収支は2012年以降赤字が続いているため資金不足の状態だ。しかし、今後は輸出の増加、海外資産の凍結解除、投資の流入などにより、収支が改善し、さまざまなプロジェクトが動き出す可能性がある。特にインフラの老朽化が顕著で、更新需要があることから、最新技術を持った日本企業などの参加が必要となっている。

 

 インフラビジネスのポイントとしては、以下の5点が挙げられる。

 

1)老朽化した施設の更新需要〔発電所については、向こう5年間は毎年5,000メガワット(MW)規模で増設予定〕

2)環境関連ビジネス(大気汚染が深刻化しており、社会問題となっている)

3)脆弱(ぜいじゃく)なファイナンス(そのため日・イラン投資協定で発表された日本政府による金融サポートは大きい)

4)日本に対する良いイメージ

5)中国をはじめとする各国との競争激化

 

<企業信用調査は必須>

 インフラ分野に参入する場合、現地法人を設立するなど一定程度の投資が必要となる。そこで、イランに投資をする際のポイントについて、主に法的な手続きの観点からまとめると次のようになる。

 

 米国のイランに対する制裁には、「1次制裁」と「2次制裁」がある。「1次制裁」は主に米国人を対象としており、これは特別指定国民(SDN)リストやイスラム革命防衛隊(IRGC)リストに掲載されている個人または事業体との取引を制限するものだ。「2次制裁」はさらに対象を拡大し、制裁対象者と取引を行う非米国人に対しての米国との取引を制限するという内容で、1月の制裁解除はこの「2次制裁」の解除に当たる。

 

 今回の制裁解除によって、400以上の事業体や個人などがSDNリストから削除されるものの、イラン関連貿易での米ドル使用禁止などの課題は残されている。経済制裁によって長い間孤立状態にあったため企業ガバナンス文化が異なることや、米国の1次制裁は続くため、パートナーを組む際はSDNリストに入っていないことなどをチェックする企業信用調査が必須だ。

 

 イランでビジネスを始める際、特に税の優遇措置がある自由貿易地域(FTZ)への進出も一案だ。FTZ内のインフラ開発は遅れており、FTZ全体を開発対象としてみることができる。

 

 ClydeCo国際法律事務所によると、日本企業の進出時は以下の2点について特に注意する必要がある。

 

1)精緻な企業信用調査を必ず実施すること(特にSDNリスト、IRGCリストなどはしっかりと確認する必要がある)

2)制裁関連のチェック事項で漏れを防ぐため、網羅する必要がある項目を文書化すること

 

 講演内容は以上のとおり。日本企業にとってイランビジネスは、手続き面で慎重に進めていくことが求められるが、日・イラン投資協定の締結や外国からの投資環境が整いつつあること、インフラの更新需要が旺盛であることなどから、大きなチャンスがあるといえそうだ。

 

(遠藤壮一郎、中村志信)

(イラン)

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