開城工業団地の閉鎖で被害総額は8,152億ウォン規模に

(韓国、北朝鮮)

中国北アジア課

2016年03月23日

 南北経済交流の象徴といえる開城(ケソン)工業団地が、2月11日に閉鎖に追い込まれた。北朝鮮が1月に核実験、2月に長距離ミサイルの発射実験を行ったことを受け、韓国政府が同団地の操業全面停止を明らかにしたのに反発した北朝鮮が閉鎖を宣言した。閉鎖に伴う進出企業の被害総額は8,152億ウォン(約815億2,000万円、1ウォン=約0.1円)規模に上っており、今後さらに拡大するとみられている。

<韓国の操業全面停止発表に北朝鮮が閉鎖宣言で対抗>

 韓国政府は210日、北朝鮮による4回目の核実験(16日)と長距離ミサイル発射実験(27日)を受け、北朝鮮の核やミサイルの開発を容認しないという立場を明確に示すとともに、北朝鮮にとって貴重な外貨獲得源になっている開城工業団地の操業を全面的に停止するという措置を発表した。

 

 これに対し北朝鮮側は211日、対韓国窓口機関「祖国平和統一委員会」の声明で、同団地を閉鎖して「軍事統制区域」にすると宣言するとともに、同団地内にとどまっている韓国側関係者を直ちに追放すると発表した。北朝鮮側は併せて、軍の通信(ホットライン)および板門店の連絡ルートも閉鎖すると韓国側に通告してきたことから、南北間の公式の連絡ルートはなくなった。

 

 韓国統一部は211日の記者会見で、「今回の決定は、国民の安全を最優先にし、挑発の悪循環を断って、北側に態度の変化を迫るものだ」と、高度な政治判断であることを強調し、これにより発生した企業の被害は政府として最大限支援すると述べた。同団地が閉鎖されたことで、韓国政府は同団地への電力供給を停止した。

 

<韓国経済界からは正常化を望む声>

 210日に韓国政府が操業の全面停止を発表した時点、すなわち北朝鮮が団地の全面閉鎖を明らかにしていない状況では、韓国の経済団体から正常化を望む声が上がっていた。韓国貿易協会は、操業中断は残念としながら、「南北関係が改善され、1日にも早く団地が正常化することを望む」との談話を発表した。また、日本の経団連に当たる全国経済人連合会は、政府の発表に理解を示しつつも、「今の状況が早期に解決することを望む」とした。一方、開城工業団地に入居する企業でつくる開城工業団地企業協会は、当然のことながら政府の決定に反発し、決定を再考するように求めた。

 

 開城工業団地進出企業非常対策委員会は224日に総会を開き、進出企業を対象に実施した被害実態調査結果(回答:120社)を発表した。それによると、投資した金額に原材料などの在庫を加えた被害総額は8,152億ウォンに達するという。このほか、製品を納入できなくなったことで発注元から損害賠償を要求されるケースが出てくることも考えられ、被害総額がさらに拡大することは確実とみられる。

 

 韓国政府はこれに先立って212日に関係官庁会議を開き、進出企業の被害額をできるだけ少なくするため既存の貸し付けや保証については償還を猶予し、満期を延長することにした。また、国税や地方税の納付については、税金の種類によって納付期限を最長9ヵ月から1年間延長することとし、電気料金などの公共料金についても支払いに便宜を図ることにした。

 

 北朝鮮は310日、南北間で採択された経済協力と交流事業に関する全ての合意事項の無効を宣言し、北朝鮮にある韓国企業や関係機関の全ての資産を凍結すると発表した。これに対し韓国統一部は同日、「北朝鮮側の一方的な主張は絶対に受け入れることはできない」との立場を明確にしている。

 

2015年の111月の生産額は5億ドル超で過去最高>

 韓国統一部がウェブサイト上で明らかにしている開城工業団地の資料によると、2015111月の生産額は51,549万ドルと、2014年通年の46,997万ドルを上回り、過去最高だった(表1参照)。

 また、北朝鮮側の従業員は2014年末の53,947人から201511月末には54,763人と800人余り増えており、韓国側の従業員を合わせると55,566人と、こちらも最高を記録した(表2参照)。

 開城工業団地は、20134月初旬から9月半ばまで、北朝鮮側が従業員を引き揚げたことで5ヵ月半にわたって操業を中断(2013年8月272013年9月20日記事参照)したが、それ以降は順調な生産を続けていた。

 

(根本光幸)

(韓国、北朝鮮)

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