法人税の納税方式の選択基準を明確化-中南米における制度改定の動向-
(チリ)
サンティアゴ発
2016年03月01日
チリでは2016年に入り、税制および外資誘致に関する制度変更が行われた。2月1日には税制改革簡素化法(20,899号)が公布され、新税制の理解・適用がしやすくなるよう、法人税の納税方式の選択基準がより明確にされた。また外資誘致に関しては、1月21日付で従来の外資委員会(CIE)に代わり、対内投資促進庁(APIE)が活動を開始した。
<税制改革法を簡素化>
チリでは税制改革(財務省法20,780号、2014年9月29日官報掲載)が段階的に進められている。同改革の目的は、教育無償化をはじめとする教育改革や社会プログラムの財源を確保するとともに、投資・貯蓄に対するインセンティブも与えながら、税制上の公平を実現することにある。税制改革法の発効後1年以上が経過し、新税制がスムーズに施行されるためには、同制度の見直し・修正が必要だとの声が多く出されたこともあり、税制改革法を簡素化するための法案が2015年12月15日、議会に提出された。
税制改革法により、第1カテゴリー税(法人税)は2017年以降、インテグラド方式とセミ・インテグラド方式に分けられ、それぞれ異なる税率が適用されることになっている(注1)。そのため、各方式を選択するに当たっての基準を速やかに提示するためにも、簡素化法案は緊急案件に指定され、2016年1月27日に上下院で承認が得られた。バチェレ大統領は2月1日、税制改革簡素化法20,899号に署名し、3月には租税・税関裁判所法修正のための法案を提出し、即座に審議・承認されるよう緊急案件に指定するとコメントしている。
<納税方式の基準明確化と変更の制限>
簡素化法により、所得税法、付加価値税(IVA)法などに修正が加えられた。主な修正は、所得税法の法人税の納税方式に関するもので、各方式の選択基準がより明確にされ、他方式への変更に制限が加えられた。具体的には、インテグラド方式を選択できるのは、自然人のみで構成される個人起業家、個人有限責任会社、一部の簡易株式会社などに限定され、株式会社および出資者に法人が含まれる企業は、セミ・インテグラド方式とされ、インテグラド方式を選択している企業に法人の出資者が加わった場合は、セミ・インテグラド方式に変更しなければならない、とされた。
また、自然人のみで構成される個人起業家、個人有限責任会社、一部の簡易株式会社など、インテグラド方式の対象とされている企業は、中小企業用簡略化方式(所得税法14条ter-A)の選択も可能とされた。
このほか中小企業に対しては、資本金が6万UF(注2)以下で、過去3年間の売上高が年間平均5万UF(各年の売上高は6万UF)を超えない場合、税制改革法により、インテグラド方式と類似する中小企業用簡易方式が選択でき、法人税免除(2017年以降、収入に応じた補完税のみ賦課)や簡略会計処理(収入と支出の差額に対し法人税を賦課、電子帳簿の導入ほか)などが適用される。
財務省の発表によると、2015年に14条ter-Aを選択した中小企業の数は10万件超、簡素化法署名時に14条ter-A選択の企業数は合計約20万件を超えており、インテグラド方式または14条ter-Aを選択する企業は95%になるとみられている。
そのほか、IVA法については不動産売却時のIVA導入などに修正が加えられ、税法では租税回避条項に関し、2015年9月30日以前にさかのぼって適用されないことが明示された。
さらに租税協定関連では、税制改革法において、セミ・インテグラド方式選択の企業が租税協定発効国へ送金を行う場合、法人税と追加税の課税率は合計で最高35%とされていたが、この税率の適用に関し、簡素化法の移行条項4条において、2017年1月1日以前に署名が行われ2019年12月31日以前に発効する協定に対しても、同様に最高税率35%が適用されるとしている。
なお、チリ国税庁(SII)は2016年1月27日、パリで多国間租税情報交換協定に署名した。同協定は、多国籍企業のグローバルなオペレーションに関する情報交換・共有を行うのが目的で、チリと日本を含む計31ヵ国が参加している(図参照)。
<外資誘致に向け対内投資促進庁が活動開始>
対内投資関連では、2016年1月21日付で経済省の法効力を有する令DFL1号が官報に掲載され、対内投資促進庁(APIE)が活動を開始した。ビセンテ・ミラ長官は、マイニング・サービス、エネルギー、食品、インフラの4分野に重点を置いて、今後2年間で4ヵ所の海外事務所(ヨーロッパに2ヵ所、米国、アジアに各1ヵ所)を開設し、積極的な投資の誘致活動を行っていく予定、とコメントしている。また、国内においては、地方への投資促進のために、経済開発公社およびイマヘン・デ・チレ財団との協定に署名している。
ちなみに、チリ国内において2016年1月1日付に変更された税率は、表のとおり。APIEの活動開始から4年間は移行措置として、旧外資法(DL600号)に基づく投資契約が可能となっているものの、税率は2.45%アップしていることに留意したい。
(注1)インテグラド方式(所得税法14条A)では、法人税と追加税を合わせた税率が全所得の35%、セミ・インテグラド方式(所得税法14条B)では、法人税と配当・送金に対する追加税とを合わせた税率が44.45%となる。
(注2)UFとは、消費者物価指数の変化率に応じて調整されるインデックスでUnidad de Fomentosの略。毎月9日に発表され、翌10日から翌月9日まで適用される。2016年2月1日の1UFは2万5,629.09ペソ(約4,100円、1ペソ=約0.16円)。
(小竹めぐみ)
(チリ)
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