中東各国の医療機器市場は年10%前後の伸び-主要見本市にみるライバル・パートナー企業の動向-

(アラブ首長国連邦)

ドバイ発、ヘルスケア産業課

2016年03月08日

 中東地域では、医療機器市場が1ヵ国で10億ドルを超える国もある。日本の医療機器メーカーが高い関心を寄せるASEAN・中国市場と比較すると、1ヵ国当たりの市場規模は同等、あるいは上回っており、日本企業にとってビジネス拡大の潜在性が高い。また、中東の特徴としては肥満度が高く、糖尿病の罹患(りかん)率が高いことが挙げられ、これに派生する医療需要が大きい。

<規模は大きくないが潜在性高い中東市場>

 世界の医療機器市場は3,403億ドル(2014年時点)で、1位が米国(39%)、2位が日本(9%)、3位がドイツ(7.9%)と続き、ランキング上位の多くは欧米や日本など先進国が占める。これら先進国は市場規模もさることながら、世界に先駆けた先端医療などの「イノベーションハブ」、世界中の医療従事者に選好される「製品のトレンドの発信地」として有力な位置にある。

 

 先進国以外は、市場規模がまだそれほど大きくない。しかし、市場の成長率でみると、先進国市場を圧倒している。20142019年の市場の年平均成長率見通しをみると、先進国では米国5.8%、ドイツ4.0%、日本3.3%に対して、マレーシア16.9%、タイ15.5%、中国15.2%となっており、中国・ASEAN諸国では10%台半ばの高成長が見込まれる。中東市場も、イラン17.3%、エジプト12.2%、オマーン11.4%、サウジアラビア9.1%、ヨルダン9.5%、アラブ首長国連邦(UAE8.9%と、軒並み10%前後の伸びが見込まれている。

 

 また、中東・北アフリカ地域の人口は、2020年に2000年比で61.7%増加し、約7億人を超える見通しだ。この増加率は、EU5.3%)はもとより、ASEAN30.1%)をも上回る。人口構成は、20歳未満が4割超と若年層が多いことから、今後も市場の持続的な成長が見込まれる。

 

 日本国内の医療機器メーカーは市場の近さなどからASEANへの展開に意欲的だが、中東諸国の市場規模をみると、ASEAN同等、あるいはそれ以上の国が並ぶ(図1参照)。また、1人当たりの医療費支出額〔購買力平価換算ドル、世界保健機関(WHO)〕では、中東諸国は1人当たりでASEAN諸国より多くの医療費を払っていることが分かる(図2参照)。

<肥満度高く糖尿病の多さが特徴>

 中東市場の特徴の1つは、肥満度の高さにある。肥満とされる体格指数(BMI)30以上の割合をみると、サウジアラビア35.6%、UAE33.7%、エジプト30.3%(WHOGlobal Database on Body Mass Index」)と、世界の最上位を中東諸国が占める。ちなみに先進国は、米国33.9%、ドイツ12.9%、日本3.1%などだ。このため糖尿病の罹患数は多く、罹患率はUAEについては国民の2割に上るという(「Arab Health Daily Dose」誌2016128日)。アラブヘルスの日本パビリオンにおいても、製品紹介の際、過体重、肥満、糖尿病に役立つ点を強調して売り込む企業がみられ、来場者の関心を引いていた。

 

 今後の湾岸諸国で注目される医療分野について、コンサルティング大手アーンスト・アンド・ヤングは、専門医療機関の整備、在宅での健康管理、急性期以降の長期リハビリテーション、バイオテクノロジー、単回使用の医療製品、1次診療現場のインフラ整備、の6分野を挙げる(同社の2016年医療分野の投資機会予測)。このうち、長期リハビリテーションについては、湾岸諸国では現在、一般病院と長期療養専門施設が分化されておらず、長期入院患者によって一般病院の病床の供給が不足気味になっている、という事情がある。

 

 こうした課題に対し、ドバイの民間病院大手アメリカンホスピタルは脳梗塞や脊髄損傷など重症患者向けの先進リハビリテーションセンターを開設している。さらに、ドバイヘルスケアシティーが実施する、シティー区域内の病院が在宅ケアのために医療従事者を派遣することを認める仕組みは、こうした課題を解決するための1つの試みに位置付けられるだろう。

 

(後藤昌夫、桜内政大)

(アラブ首長国連邦)

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