国境や地下鉄、空港などの警備を強化-ブリュッセル・テロ事件の英国への影響-

(英国、EU)

ロンドン発

2016年03月25日

 3月22日にベルギーの首都ブリュッセルで発生したテロ事件を受け、英国ではベルギー、フランスそれぞれとの国境警備や、ロンドンを中心に空港や地下鉄など市中における警備・監視体制が強化された。ロンドンでは一部の交通機関に乱れが生じるなど、市民生活にも影響が出ている。

<上から2番目の警戒レベルを継続>

 ブリュッセルのテロ事件を受け、ロンドンのヒースロー空港やガトウィック空港、ユーロスターの発着するセントパンクラス駅、地下鉄などで警備が強化され、201511月のパリ同時多発テロ以降、ロンドン市内に増えていた警官が、ブリュッセルのテロで大幅に増員された。地下鉄内でも、疑わしき荷物があれば即座に運行を停止する、とのアナウンスが流れるなど交通の乱れも生じており、混雑するプラットホームや駅を一時的に閉鎖するなど、市民の生活にも影響が出ている。

 

 英国政府は322日と23日に緊急治安対策の閣僚会合を開催し、ブリュッセルにおける英国人犠牲者の確認や、国内での警戒態勢の強化について協議した。英国内の警戒レベルは、シリアとイラクの不安定化を受け、欧米に対するテロの脅威が増したとして、20148月に5段階の上から2番目の「厳戒(Severe)」に引き上げられたままだが、今回の会合でもこのレベルを継続することが決まった。会合後に、キャメロン首相は「英国とベルギーは自由と民主主義に対する価値観を共有する。テロリストはわれわれ2つの国のよりどころを全て破壊したがっているが、われわれは彼らを勝たせはしない」と述べた。また、ドイツのメルケル首相と電話会談を行い、ベルギーとの連帯を図り、テロの脅威に対して緊密な連携を続けることで合意した。

 

 メイ内相は323日に議会で、英国人4人がテロ事件に巻き込まれて負傷し、1人が安否不明の状況と説明した。国境や空港、地下鉄、市中での警備強化を図っていることや、2015年に成立したテロ対策・治安維持法に基づき、リスクがあると判断された場合は航空会社に対してテロリストとおぼしき乗客を英国便に搭乗させないようにする権限や、英国旅券を一時的に差し押さえる権限を導入し、既に20回以上そうした権限を発動した、と述べた。また、テロ対策に関連する調査権法案(2016年1月15日記事参照)についても成立を急ぐと同時に、情報局保安部(MI5)、情報局秘密情報部(MI6)、政府通信本部(GCHQ)といった情報機関の体制強化についても急ぎ進めていく方針を示した。

 

<国民投票に向けEU離脱派に勢いか>

 こうした中、ブリュッセルのテロ事件は、英国のEU離脱(2016年2月24日記事参照)に向けた動きに拍車を掛けている。英国では623日にEU残留か離脱かを問う国民投票が予定されているが、今回のテロ事件を受けて、EU離脱を唱える英国独立党(UKIP)は「恐ろしいテロの発生は、シェンゲン協定の定める国境なき自由移動がわれわれの安全にとって脅威であることを物語っている」との声明を発表した。キャメロン首相はこの声明について、「テロと入国管理を関係付けた発言を行うことは不適切だ」と述べたが、当地メディアや複数の専門家は、パリに続くテロ事件の発生により英国のEU離脱の可能性は増す、との見方を示している。

 

 また、324日になって報道の焦点は、EU離脱による英国の安全レベルへの影響に移りつつあり、MI6前局長のリチャード・ディアラブ卿が「英国がEUを脱退すれば、移民コントロールや容疑者に対する法的対処の強化が可能となり、安全レベルが上がる」と発言したことを「デイリー・テレグラフ」紙(323日)が1面トップで報道したほか、「タイムズ」紙(324日)も大きく取り扱っている。

 

 こうしたことから、英国経済の先行きに悲観的な見方が強まり、322日と23日には通貨ポンドが大幅に下落した。また、観光関連企業も軒並み株価を下げており、「ガーディアン」紙(323日)によると、トンプソン・ホリデーズが2.7%、トーマス・クックが4%、ブリティッシュ・エアウェイズを傘下に抱えるインターナショナル・エアラインズ・グループが1.5%値下がりした。

 

(佐藤丈治)

(英国、EU)

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