新為替制度を発表-1ドル=10.0ボリバルの固定に-

(ベネズエラ)

カラカス発

2016年03月16日

 新しい為替管理制度について定めた為替協定35号が、3月9日付官報40865号に公示され、翌10日に発効した。これにより、今まで食料や医薬品などを輸入する際に適用されていた1ドル=6.3ボリバルの固定為替レートが、「保護された為替レート(DIPRO)の外国為替」と呼ばれる為替制度に基づく1ドル=10.0ボリバルの固定為替レートになった。また、「補足的なフロート制為替レート(DICOM)の外国為替」と呼ばれる為替制度に基づく為替レートが新たに運用される。DICOMの運用は、30日以内に開始するとしているが、詳細は不明だ。

DIPROは食料品、医療品などの外貨需要に適用>

 為替協定35号によると、国民の生活に不可欠な食料品、医療品およびそれら必需品の生産のために必要な資材・原材料の輸入、公的部門の対外債務支払い、その他国営組織の生産活動に必要な外貨の調達には、1ドル=10.0ボリバルの「保護された為替レートの外国為替(DIPRO)」が適用される。外貨割り当てを管理する国家貿易センター(CENCOEX)のウェブサイトに、DIPROの為替レートが適用される商品の関税分類番号が公開される予定だ。

 

 加えて、ベネズエラ国外に居住する年金受給者、障害者や寡婦あるいは寡夫にベネズエラ社会保険庁が支払う外貨建ての社会保障費は、DIPROの為替レートが適用される。ほかにも為替規則で定められた治療行為、スポーツ、文化および科学調査活動、緊急的に必要となる外貨の支払い、学生の留学にもDIPROの為替レートが適用される。ただし、今後新たに外国へ留学するに当たり、DIPROの為替レートで外貨を入手できるのは、政府が定めるプログラムに限定するとしている。

 

 また、これまでベネズエラ国営石油公社PDVSAは、原油および石油製品の輸出および販売により得た外貨を原則、固定為替レート(1ドル=6.3ボリバル)で売却することが義務付けられていたが、本為替協定で示されたいずれかの為替レート、すなわちDIPRODICOMいずれかの為替レートで現地通貨ボリバルに両替できるようになった。PDVSAは、原油価格下落により外貨収入が著しく減少しているにもかかわらず、外貨収入を過度にボリバル高の固定為替レートで売却することを義務付けられていた。この為替協定によりボリバル安の為替レートで外貨を両替できるようになるため、PDVSAの経営環境が改善される。ただし、為替協定は、経済担当副大統領、財務銀行省、中央銀行が同社の適用する為替レートに介入できる余地があるように記載されており、どの為替レートを適用するかはPDVSAの一存では決められないようだ。

 

DIPROに該当しない外貨取引はDICOMへ移行>

 為替協定35号により新たに「補足的なフロート制為替レート(DICOM)の外国為替」と呼ばれる制度の運用が始まる。同制度の為替レートの決定プロセスなど詳細はまだ公開されておらず、運用についても現段階では詳細は不明だ。明確にされている点としては、DIPROに該当しない目的で外貨が必要となる場合はDICOMの為替レートで外貨を入手しなければならない、ということだ。ベネズエラ国内で輸出に従事している企業が、輸出により得た外貨の両替には1ドル=215ボリバルのSIMADI(変動相場制)が適用されることになっていたが、DICOMの運用が開始されればDICOMの為替レートが適用される。DICOMは為替協定35号の発効後30日以内に運用を開始するとしており、それまでの期間はSIMADIの為替レートの運用が継続される。

 

 ミゲル・ペレス・アバッド経済担当副大統領は、DICOMは外貨の需要と供給によって為替レートが変動すると述べ、変動相場制へ移行する可能性を示唆している。ただし、SIMADIが始まった際にも中銀総裁が同様の発言をしていたが、これまで中銀のコントロール下にある半固定の変動為替相場制だったこともあり、実際にはDICOMの運用が始まるまで分からない。なお、ベネズエラ国内の個人にとっては、外国旅行に行く際やクレジットカードで国外の財・サービスを購入する際に適用される為替レートがどうなるかは大きな関心事だったが、これらにはDICOMが適用されることになる。

 

 同副大統領は、DICOMを通して年間55億ドルから70億ドル程度の外貨を供給すると発言している。2014年の民間部門の財・サービスの輸入額が312億ドルだった点を考えると十分とはいえないが、それなりの金額をDICOMへ供給する意思がみられる。

 

<外貨清算許可がない未清算案件はDIPROのレートを適用>

 ベネズエラで為替制度を変更する際に問題になるのが、過去に輸入した商品で、外貨の清算が完了していない案件にどの為替レートが適用されるかという点だ。

 

 固定為替レートは原則、後払いのシステムになっている。固定為替レートで支払いが完了するまでの手順は次のとおりだ。まず、輸入者が外貨管理当局であるCENCOEXに対して特定の商品を輸入したい旨を申請する。その後、CENCOEXが固定レートで輸入させる必要性のある商品かどうかを精査し、承認されればCENCOEXが「外貨割当許可(AAD)」を発行する。輸入者はAADの発行を受けて正式に輸出者に商品の発注を行い、貨物がベネズエラに到着する。輸入者は、AADが発行された商品が適切に国内通関を終えたことを証明する一連の書類をCENCOEXに提出する。その後、CENCOEX側で支払い準備が完了した段階で「外貨清算許可(ALD)」が発行され、ようやく中銀が輸出者に支払いを行い取引が終了する。固定為替レートに関し最大の問題は、CENCOEXALDを発行するまでの期間が異常に長いことだ。輸入者がCENCOEXALDの申請をしてから2年以上経過してもALDが発行されない案件も少なくない。中銀の統計では、20159月末時点で民間部門が外国に負っている貿易信用の総額は131億ドルに上っている。

 

 支払い待ちの案件全てにAAD発行時に許可された為替レートが適用されるのであればいいが、実際はそうはならない。具体的には、「本為替協定が発効した2016310日以前にALDが発行されたが中銀からの清算が完了していない案件」には1ドル=6.3ボリバルが適用される。一方で、「AAD発行を受けて商品を輸入し、CENXOEXに対して支払い許可を求めているがまだALDが発行されていない案件」には1ドル=10.0ボリバルのDIPROの為替レートが適用される。このケースに該当する多くの輸入者は、1ドル=6.3ボリバルで外貨が得られる前提で商品の価格を立て、販売、現金化しているため、1ドル=10.0ボリバルの為替レートが適用されると大きな為替差損が生じる。

 

 また、1ドル=13.5ボリバル(変動相場制)の為替レートSICADについては、本協定発効日前日までに中銀がSICADでの支払いの申請を受理していれば、SICADの為替レートが適用される。

 

(松浦健太郎)

(ベネズエラ)

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