農業輸出団体は評価、酪農や養鶏業界は静観-TPP協定署名に国内の反応分かれる-

(カナダ)

トロント発

2016年02月18日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定文書に2月4日、クリスティア・フリーランド国際貿易相が署名したことを、カナダ国内では農業分野の輸出団体が評価している。一方、供給管理体制の下に置かれてきた酪農や養鶏業界は、前政権が約束した補償対策が棚上げされたことから静観の構えだ。

<付加価値の高い農業輸出に期待感>

 カナダ菜種協会のパティ・ミラー会長は24日、同協会のプレスリリースで署名を評価する意向を示した。TPPにより菜種油の関税が撤廃されることで、菜種より付加価値の高い商品の輸出が拡大することに期待するとした。

 

 カナダ農産食品貿易同盟(CAFTA)のブライアン・イネス会長も24日、「TPPによって米国市場へのアクセスが維持され、日本や新興市場のマレーシア、ベトナムなど、これまでに例を見ない市場アクセスが確保される。公平な環境の下で各国に輸出することで、カナダの農業食品分野は成長して競争力を増し、新たな雇用創出につながる。あとは批准を急ぎ、協定を実行に移すのみだ」との声明を発表し、協定の早期発効に期待を寄せる。

 

 CAFTAの会員は、牛肉、豚肉、穀物、油脂、砂糖、麦芽などカナダの主要輸出品目の生産、加工、輸出業者で構成されており、カナダの農産品輸出額の8割は同会員によるものだという。CAFTAによると、農産品輸出の65%はTPP署名国向けで、TPPに参加しなければカナダの輸出品目は直ちに競争力を失うことになるとしている。

 

<政府は酪農や養鶏への補償対策を棚上げ>

 一方、国内で供給管理体制の下に置かれてきた酪農や養鶏業界はコメントを控えている。2015105日にTPPが大筋合意した際、当時の保守政権は国内の酪農、養鶏業者への補償対策として、向こう15年間で43億カナダ・ドル(約3,526億円、Cドル、1Cドル=約82円)の拠出を約束した。カナダ酪農生産者連盟のウォリー・スミス会長は当時、「市場が開放されないことが望ましいものの、カナダの酪農産業への影響を最小限に抑えようと政府が他国の要求に抵抗し、かつ負担軽減策を講じたことを理解している」との声明を発表し、政府の対応に一定の評価をしていた。しかし、TPP署名前日、フリーランド国際貿易相は現地メディアに対し、「支援が必要なことは十分理解しているが、批准した場合に保守政権が発表した補償対策がそのまま残るかどうかについて言及するのは時期尚早だ」と述べており、補償対策の実施はいったん棚上げされている。

 

(飯田洋子)

(カナダ)

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