初の電子商取引ルール整備を評価する声-国際貿易委員会によるTPP公聴会(2)-

(米国)

ニューヨーク発

2016年02月04日

 米国際貿易委員会(ITC)が1月13~15日に行った環太平洋パートナーシップ(TPP)協定に関する公聴会報告の後編は、IT企業、労働組合、製薬業界などの証言を紹介する。IT企業からはTPPによる電子商取引のルール整備を評価する声が聞かれた一方、労働組合は労働者の権利保護、製薬業界は新薬のデータ保護期間について、それぞれ基準が不十分と批判した。

TPPTTIPTiSAのモデルに>

 米国は世界最大のサービス輸出国であることから、サービス業ではTPPが米国経済を活性化する、との証言が多数を占めた。特に電子商取引においては、TPPによって初めて複数国間のルールが整備されたことが評価された。

 

 IBMのクリストファー・パディラ政府・規制担当副社長は、米国と他のTPP参加国11ヵ国がTPPを批准することを望む、と述べた上で、「米国はあらゆるデジタルコンテンツの最大の輸出国だ。TPPによって国境を越えるデータの保存、加工、移動の自由が保障されることは、米国経済にとって最も重要な規定になるだろう」と強調した。また同氏は、TPPの電子商取引章が環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)や新サービス貿易協定(TiSA)のモデルにもなり得る、と証言した。

 

<労働組合や製薬業界は負の影響を懸念>

 産業界からはTPPの経済効果を評価する証言が相次いだものの、労働組合は総じて否定的でTPPによって所得向上も経済成長も見込めないと主張した。米労働総同盟・産別会議(AFLCIO)のセレステ・ドレイク氏(通商政策担当)は「国際基準にのっとった労働者の権利保護は、公平な競争環境を整え、労働条件の過剰な悪化を防ぐのに役立つ。TPPの労働章はこの基準に達していない」と述べた。ベトナムでは独立した労働組合も団体交渉もなく、またマレーシアでは労働者の結社と団体交渉の自由が守られていないなど、一部のTPP参加国については問題が指摘されている。同氏は「労働組合と団体交渉は、所得を向上させ、賃金格差を是正する上で必要とされている。TPPによって参加国の労働条件が改善されるかどうかで、TPPが経済に与える影響が異なる」と、労働章が及ぼす影響を分析するようITCに求めた。

 

 TPP交渉において争点の1つとなっていた医薬品のデータ保護期間については、情報技術・イノベーション財団が、実質8年間の保護では新薬の開発に必要な資金を確保するための十分な期間が保護されない、と証言した。同財団のスティーブン・イーゼル副代表は「医薬品アクセスは非常に重要だが、そもそも、薬が存在するからこそ医薬品を提供できる。8年間の保護期間では新薬の開発に十分な資金を集められない。医薬品の売上高と研究開発費の支出に相関関係があることは、OECDも認めている」とし、製薬業界にとって負の影響がある、と強調した。また同氏は、TPP交渉において、低価格で薬が欲しい発展途上国と保護期間を延ばしたい先進国との対立があったことを踏まえ、「医薬品のデータ保護期間は、現代と次世代との対比でも考えるべきだ。現代では治療できない病気であっても、次世代になれば治療できる病気もある。新薬を開発するために十分な保護期間が必要だ」との見解を示した。

 

 ITCはこれらの証言を踏まえて報告書を作成し、518日に大統領と議会に提出する予定となっている。

 

(赤平大寿)

(米国)

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