雇用期限や就業規則を明文化し、トラブル回避-カイロでエジプト労働法セミナー-

(エジプト)

カイロ発

2016年02月12日

 海外進出後のビジネス環境をみる上で労働法は外せない。ジェトロは2月3日に、進出日系企業、在エジプト日本商工会会員企業の経営者や管理者を対象としたエジプト労働法セミナーをカイロで開催した。カイロ大学の労働法専門のイマーン・リヤード教授とイブラシー&デルマルカール法律事務所のファトマ・サラーハ弁護士が講師となり、経営者側からみた労使関係における留意点を解説した。エジプト進出において、経営者の立場から労使関係を円滑に進めるコツとしては、あらかじめ雇用契約期限を定めることや、就業規則などでルールを明確にすること、文書でのやり取りの徹底などの対応が求められる。

1年の有期雇用契約が通例>

 エジプトの労働法(2003年法律第12号)は、労働者保護色が強い。経営者にとっては採用時から、契約満了や解雇を見据えた雇用契約の締結が重要となる。特に、有期雇用契約にすることが最重要ポイントだ。

 

 有期雇用契約の期間は、通例では1年が多く、労使の一方が更新の意思がなければ雇い止めとなる。これに対して、期限の定めのない雇用契約にした場合には、経営者への暴行など重大な不法行為を働くなどの極端な例を除くと、解雇は容易ではない。なお、有期雇用契約でも、更新のたびに文書を交わしていない場合、5年を経過した時点で期間の定めのない契約と捉えられてしまうリスクがあるため、注意が必要だ。このほか、特定のプロジェクト要員としての雇用契約があり、この場合は契約期間が5年以内となる。

 

<昇給などに既得権の考え方あり>

 経営者側に柔軟性・弾力性を確保する狙いとして、雇用契約や組織の就業規則に盛り込むとよい項目としては、試用期間(最大3ヵ月)の設定や、配置転換できる権利の確保がある。また、各種手当については、金額設定や条件など、できる限り具体的に明示する必要がある。暗黙・慣習的に行っている場合には、3年を経過した時点で既得権と見なされ、実際に労使トラブルとなるケースが多い。既得権の考え方は、昇給についても同様だ。エジプトでは基本給そのものに対する昇給率の規定は定められていないが、過去3年以上にわたって適用した昇給率や金額が既得権として、労働者が主張できる根拠となり得る。

 

<契約書はアラビア語で>

 雇用契約終了後の観点からは、労使合意の下で機密保持義務、競業避止義務や知的所有権の放棄などを取り交わしておくよう助言している。懲戒処分では最も厳しい解雇に当たっては裁判所命令となるが、それに至るまでの手続きでは、文書による記録の作成や本人への通知が必要となる場合がほとんどで、また減給や降格など各処分の上限も定められている。

 

 雇用契約書はアラビア語で記載するよう定められている(英語とアラビア語の併記でも可)。英語のみが無効なのは、労働者も内容を全て理解した上で、合意している必要があるためだ。原本を3通作成し、経営者と労働者が双方署名の上、それぞれ保管、もう1通を管区の社会保険事務所へ提出する。

 

<労働許可取得の期間短縮が課題>

 外国人駐在の観点としては、労働許可と外国人雇用比率に触れた。労働許可取得手続きでは、セミナー講師の説明によると最低2ヵ月かかっているのが実態だ。約1年前に日本大使館とジェトロ・カイロ事務所が商工会会員企業向けに行ったアンケートでも改善要望の筆頭項目となっており、着任後の出張などに支障が出ている。時間がかかっている原因は、進出窓口機能を担っている投資フリーゾーン庁ではなく、内務省内の部局での審査にあることが分かっている。このほか、自国民労働者雇用促進のため、外国人労働者の雇用比率は10%を上回ってはならないと定められている(駐在員事務所を除く。またフリーゾーン内の企業の場合、外国人雇用比率は25%)。社会保険事務所や労働当局の抜き打ち査察があるため、運用面でも要注意だ。このほか、セミナーでは、休暇や就業時間、社会保険などについて、参加者から質問が多く寄せられた。

 

 エジプトでは、201512月に大統領指示で、外国企業の投資面の障害をあぶり出して政府に提言することを主な目的とする、首相主宰の投資家・政府間連携委員会が設立された。前述の労働許可手続きなど進出日系企業が抱える問題も、2国間経済委員会の枠組みを通じて、日本大使館とともに提起した。ビジネス環境の改善・整備に向けた今後のエジプト政府の対応が重要となる。

 

(池田篤志)

(エジプト)

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