サービス産業を重視し日本に期待-バンコクで日・タイ経営者セミナーを開催-

(タイ)

バンコク発

2016年02月12日

 ジェトロは1月20日、タイ商務省国際貿易振興局(DITP)、経済同友会とともに「日タイ・サービス産業経営者セミナー」をバンコクで開催した。セミナーでは基調講演としてスウィット商務副大臣が、「タイのサービス産業と日本への期待」と題して講演を行い、タイが重視しているサービス分野と日本への期待を表明した。

<「新しい章」はサービス経済>

 ジェトロ・バンコク事務所が120日に主催した「日タイ・サービス産業経営者セミナー」では、ソムキット副首相が率いる経済チームで対外ビジネス政策を担うスウィット商務副大臣が、「タイのサービス産業と日本への期待」と題して、次のような講演を行った。

 

 これまでの日タイ関係では日本からの製造業への投資が多かった。しかし21世紀に入り、知識集約型の経済になったことからサービス経済への投資の移行が起きている。これから日タイの貿易関係も「新しい章へ入る」と考えている。日本は高齢化という脅威をロボット産業など関連サービス創造の機会に変えた。タイでも高齢化が社会の負担とならず、高齢者が生き生きと生活できるようにしていきたい。この分野で日本と協力し合えるのではないかと考えている。

 

6分野に分けて関連産業を育成>

 現在、タイのサービス貿易では観光業が78割を占める。この傾向から抜け出すために、タイ政府が立ち上げた国際貿易委員会では次の6分野に注力してサービス産業を育成していくことになった。

 

1)ウェルネス、医療サービス

 医療、ウェルネス、美容・健康といった分野はタイが強みを持っている。タイは疾病治療に強く、サービス精神がある国。海外の投資家を誘致し、タイの事業者と組めば、より付加価値の高いサービスを提供できる。海外から2014年に2,200億バーツ(約7,040億円、1バーツ=約3.2円)の収入を得たが、多くがスパ、タイマッサージ、美容分野だ。こういった分野では日本企業と手を組める。

 

 また、タイでは60歳以上の人口が増えており、これから高齢化社会に入る。一方、日本は高齢化社会に対応した経験が豊富にあり、日本企業とタイ企業が手を組む余地がある分野だ。2020年には海外から3,600億バーツの収入を得たい。

 

2)物流

 タイには物流分野の企業が14,000社ほどある。物流にベストプラクティス、インテリジェントシステムを導入できれば、タイは物流ハブとなることができる。タイ企業のメコン川流域の国々への進出も可能だ。さらに(インドシナ半島を貫く)東西経済回廊を活用することで、太平洋・インド洋までつながることも視野に入る。そのためには連結性の向上が重要だが、これには物理的な連結性だけではなく人々の連結性、情報の連結性も含まれる。現在、GDP14.7%を物流が占めていることから分かるように、非常に高いコストがかかっており、政府は2020年までにこの割合を12%に引き下げる目標を立てている。

 

3)ホスピタリティーサービス

 ホスピタリティーにはホテル、観光業だけではなく、クルーズ、ケータリング、イベント開催が含まれる。CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の所得の拡大につれてホスピタリティー関連サービスが拡大することが考えられる。タイで開催されるイベントは増加するだろう。タイ政府は企業との議論を通じて、ホスピタリティー立国となることが可能と考えている。

 

4)エンターテインメントおよびコンテンツ

 タイではソフトウエア産業が十分に育っておらず、例えばプログラミング用のC言語を使える人材は不足している。しかし、アニメーション、グラフィックスについては十分にイノベーションを起こし続けていく力がある。コンテンツ産業の中でも特に映画製作の特殊効果、音声を含めたアニメーションといった分野は強い。この分野で日本とタイはアジアやCLMV諸国と協業できる。例えば、スタジオ、ラボ、共同企画など、日タイで協力してやっていくことができるだろう。

 

5)教育

 タイには国際教育を展開可能な学校がたくさんある。個人に合わせた教育を実施することによって、タイおよび近隣諸国の人材を育成し、高度な技術を習得させることができる。タイの教育産業は職能の高度化を周辺諸国の人たちにも提供することが可能だ。

 

6)専門サービス

 エンジニア、プログラマー、建築家、設計士、コンサルタントといった専門家によるサービスを用いてCLMV諸国の職業の高度化を図りたい。例えば、タイのインテリアデザイナーがカンボジアで仕事をしているケースもあり、タイの競争力は十分にあると考えている。

 

<投資促進と法規制の緩和を検討中>

 タイ政府はサービス産業の育成を真剣に考えている。このため、商務省は投資委員会(BOI)と、サービス分野への投資を促すためにどのような投資恩典を付与できるか協議中だ。ただし、製造業の投資と異なり、サービス産業は人材が基礎となるので設備投資はほとんど必要ない。このため、ソフトウエアだけの投資を行った場合、どのような恩典がふさわしいか検討している。

 

 また、個人事業主の届け出制を導入したいと考えており、法改正を検討中だ。サービス産業に携わり、知的財産を所有してアイデアがある人にタイで夢を実現してもらいたい。

 

<タイの中小企業もオープンな世界で競争を>

 ソムキット副首相は中小企業(SME)のSMは中小を意味するスモール、ミディアムではなくスマートのSMだと考えている。タイの中小企業はスマート企業として国際競争力を有していかなければならない。技術を進化させて、外国のパートナーと一緒に力を発揮していくことが必要だ。閉じられた世界ではなくオープンな世界で競争しなければならない。

 

(長谷場純一郎)

(タイ)

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