新たな電力料金体系で国民負担を軽減-中南米における制度改定の動向-

(ブラジル)

サンパウロ発

2016年02月26日

 国家電力庁(ANEEL)は新たな電力料金体系を発表し、2月1日から運用を開始した。2014年末から2015年前半にかけての水不足で水力発電による電力供給が減少し、高コストの火力発電の割合が上昇したため、2015年3月以降、電力料金は上昇していた。今回の料金改定は、降雨による水力発電の回復を踏まえたもので、インフレ抑制にもつながる、と期待されている。

<料金を4種類にし、加算分も一部引き下げ>

 2014年末からの極端な降雨量不足に伴う水力発電の供給能力低下と、コスト高の火力発電による電力供給割合の増加により、ANEEL20153月以降、電力料金を引き上げた。具体的には、発電所の稼働率に応じて月ごとに3種類の料金のいずれかを適用することとした(2015年3月19日記事参照)

 

 今回の改定により、料金は4種類に細分化され、電力不足の場合の加算料金も一部引き下げられたことで国民の負担は軽減される。新たな料金体系は、従来どおり「緑(十分な電力が供給できる月)」は基本料金のみ、「黄(若干不足する月)」は基本料金に月額キロワット時(kWh)当たり1.5レアル(約42円、1レアル=約28円)が加算される。改定前の加算額は2.5レアルだった。また、最も高い料金ゾーンと「黄」の間に新たに設けられた「赤1」(逼迫すると予想される月)という料金は、加算額が3レアルに設定された。そして、最も電力供給の逼迫が予想される月の料金「赤2」については従来の「赤」の加算額と同じとなっている。

 

 月ごとの料金はANEELウェブサイトで前月下旬に公表される。ちなみに20162月は「赤1」が適用されている。

 

 今回の改定の背景としては、2015年の電力消費量が発電電力量を下回り、余剰電力があることが挙げられる。また、国内の多くの地域で降雨不足が若干回復したことにより、今後火力発電を使用する頻度が減る可能性が高いこともある(「バロール」紙127日)。

 

 ANEELのアンドレ・ペピトン理事は「バロール」紙に、「電力が逼迫する状況を完全に脱したわけではない」とコメントし、引き続き節電を呼び掛けている。また、128日付「フォーリャ・ジ・サンパウロ」紙によると、政府はダムの貯水率が低い地域などを中心に降雨量の回復状況をみて、南東部などが乾季に入る6月頃までに電力料金を引き下げる意向で、3月に「黄」、5月に「緑」を適用することを目指している。

 

<インフレ下押し効果は限定的か>

 今回の料金体系改定は、インフレ率の低下につながることが期待されている。2015年の消費者物価の上昇率は10.67%で、2002年以来となる2桁を記録した(2016年1月15記事参照)。高インフレの要因として特に電力料金の値上げが影響していることが明らかになっている。127日付「バロール」紙によると、電力料金体系の「黄」が適用されるのは2016年半ば以降になるとみられることから、インフレの下押し効果は限定的との見方が多いものの、料金改定自体がインフレの沈静化に向けて重要なステップだとの指摘もある。

 

(辻本希世)

(ブラジル)

ビジネス短信 0c76edb23018ead2