韓国企業は日本企業に先駆け進出-中央アジア・ビジネスセミナー(2)-

(中央アジア、韓国、カザフスタン、ウズベキスタン)

欧州ロシアCIS課

2016年01月26日

 韓国企業は日本企業に先駆けて、特にカザフスタンやウズベキスタンに進出している。分野は多岐にわたり、現地での経営ノウハウを蓄積している。一方で準備不足による撤退事例もあり、現地に進出する韓国企業からは、リスク回避のため入念に事前調査を行う日本企業との協業に期待が寄せられている。

<歴代大統領が訪問、人の往来も増加傾向>

 中央アジアにおける韓国企業の活動について、ジェトロ・ソウル事務所経済・海事調査チームの李海昌次長は次のとおり報告した。

 

 韓国企業が海外に進出する際、日本企業が少ない場所を選ぶ傾向にある。例えば、ベトナムには今では多くの日本企業が進出するが、かつては韓国企業が日本企業に先んじて進出していた。中央アジアも同様だ。

 

 最近の韓国政府の中央アジアに対する取り組みとして、2007年に立ち上げた中央アジア協力フォーラムがある。韓国と中央アジア各国の政府高官による会合が毎年行われている。2016年には大臣レベルに格上げされて、ソウルに「韓国・中央アジア協力事務局」の設置が検討されている。

 

 盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領、李明博(イ・ミョンバク)前大統領、朴槿恵(パク・クネ)現大統領は、いずれも中央アジアを訪問した。朴大統領は2013年にユーラシア・イニシアチブ構想を発表、中国の「一帯一路」構想と連携を図り、中央アジアや欧州をつなぐ交通・情報技術・エネルギーのネットワークを広げたい考えだ。

 

 中央アジアとの人的交流の観点では、旧ソ連時代の1930年代後半に沿海州(現在のロシア沿海地方)から中央アジアに強制移住させられた高麗人が、中央アジアでの韓国企業ビジネスの仲介役を果たしている。また仁川空港からタシケント(ウズベキスタン)、アルマトイおよびアスタナ(カザフスタン)などに定期便があり、人の往来は増加傾向だ。

 

 韓国の対中央アジア貿易動向をみると、韓国の輸出超過が続いている(図1参照)。輸出は機械類が大きなシェアを占め、輸入は原油など鉱物資源が多い。最大の貿易相手国はウズベキスタンで、続いてカザフスタンだ。

 韓国の対中央アジア直接投資をみると、大統領訪問によるトップセールスや協力フォーラム設立をきっかけに投資額が急増、2008年は92,000万ドルを記録した(図2参照)。業種は製造業が最も多く、次に金融・保険業が多い。

<最大の直接投資国はカザフスタン>

 中央アジアのうち、韓国の直接投資額で最大なのはカザフスタン。対中央アジア直接投資のほとんどを占めており、金融・保険業、建設業、製造業、不動産・賃貸業が多い。金融・保険業は大型案件が中心だ。

 

 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)によると、約200社の韓国企業がカザフスタンに進出している。例えば、建設業のA社は韓国様式のマンションを展開している。韓国のマンション市場が飽和しているため、2004年にカザフスタンに進出した。高所得層向けに3,600戸を分譲している。2008年のリーマン・ショックの影響による資金調達難や行政手続き対応の不備などのため、当初3年で完成の予定が10年かかった。

 

 菓子メーカーのB社は、2013年にカザフスタンの菓子メーカー最大手を買収した。アルマトイの工場に加え、201510月にシムケントに工場を完成させた。販売先としてカザフスタン国内だけでなく、他の中央アジア市場や、カザフスタンとともにユーラシア経済連合(EEU)に加盟するロシア市場も視野に入れている。

 

<ウズベキスタンでは空港運営を受託>

 韓国の対ウズベキスタン直接投資額は、対カザフスタンの額と比べると少ないものの、1990年代に大型投資案件が目立った。ゼネラルモーターズ(GM)ウズベキスタン(旧大宇ウズベキスタン)関係の1次・2次のサプライヤーとなる製造業企業が早い時期から進出している。KOTRAによると約170社の韓国企業が進出済みだ。

 

 航空物流業のC社は2009年に進出し、ナボイ空港の現代化に取り組んでいる。中央アジアの物流ハブを担うことが進出の狙いだった。2009年に同空港の運営を受託、2010年に貨物ターミナルを設置、2012年はホテルも完成させた。最近ではインドのデリー、ムンバイ、オランダのアムステルダムとの定期貨物便を開設している。課題は空港からの輸出貨物が輸入と比べて少ないことだ。同社は地元産サクランボの輸出を推進している。

 

 通信業のD社は2007年に日本企業と合弁で進出した。2013年に日本企業が撤退したため、D社が設立会社の100%株式を保有することとなった。地場企業と差別化した高級化戦略を取り、20157月から高速通信サービス(LTE)を開始した。当初は厳しい経営環境だったが、2013年から黒字経営を続けている。

 

 韓国の中央アジア進出傾向をみると、官民共同によるトップセールスや、韓国に多く存在するオーナー経営企業による早い意思決定を基に早期に進出し、ノウハウを蓄積してきた。しかし、事前調査の不足で撤退した事例も多くある。徹底した事前調査や、公的機関による案件発掘や資金支援などの面で、中央アジアに進出する韓国企業は、日本企業との協業に期待している。

 

(浅元薫哉)

(中央アジア、韓国、カザフスタン、ウズベキスタン)

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