ビジネスの中心はカザフスタンとウズベキスタン-中央アジア・ビジネスセミナー(1)-

(中央アジア、カザフスタン、ウズベキスタン)

欧州ロシアCIS課

2016年01月25日

 安倍晋三首相の2015年10月の中央アジア歴訪がきっかけとなり、同地域に対する関心が高まっている。ジェトロは12月17日に東京、18日に大阪で中央アジア・ビジネスセミナーを開催し、中央アジアのビジネス環境や同地域における韓国企業とトルコ企業の活動について報告した。東京でのセミナーの内容を3回に分けて報告する。1回目は、中央アジアのビジネス環境について。

<日本製品に対する信頼は各国共通>

 セミナーでは、ジェトロ・タシケント事務所の下社学所長が中央アジアのビジネス環境について次のとおり説明した。

 

 中央アジアとは、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンの5ヵ国を指す。ソ連の崩壊後、独立を果たして四半世紀がたつ。それぞれ市場経済化を進めてきたが、資源を持つ国と持たざる国、宗教や民族問題を抱えているかどうかで経済発展状況に差が生じている。

 

 各国には共通して日本製品に対する信頼がある。日本企業のビジネスはカザフスタンとウズベキスタンが中心で、これにトルクメニスタンが加わってきた。人口ではウズベキスタンが約3,100万人で最大。1人当たりのGDPではカザフスタンが突出し、1万ドルを超えている(表参照)。

<主要貿易相手はEU、中国、ロシア>

 中央アジアの主要な貿易相手はEU、中国、ロシアだ。EUの主要輸入品目はカザフスタンの原油。EUはカスピ海の資源開発向け生産財を輸出し、資源を輸入するという相互補完的な貿易をしている。

 

 中国の主要輸入品目もカザフスタンの原油で、主な中央アジア向け輸出品は衣料品、履物。ロシアの中央アジア向け主要輸出品目は、自動車とガソリンなどの石油製品で、これは中央アジアに石油精製設備がないためだ。トルコについてはトルクメニスタン向け輸出が多く、主要品目はプラントやインフラ関係の鉄鋼製品など。韓国の中央アジア向け輸出はウズベキスタン向けが中心で、GMウズベキスタン(大宇自動車が前身)への自動車部品がメーンだ。

 

 日本と中央アジアの貿易規模は小さい。日本の貿易額は最大のカザフスタンで1,500億円、日本の貿易に占める割合は0.09%。ウズベキスタンとの貿易額は207億円で0.01%(いずれも2014年)だ。

 

<強まる中国の関与>

 中央アジアの対内直接投資額をみると、カザフスタンが突出して多い。カスピ海沖や沿岸の資源開発向けが大半を占めている。主要投資国は英国とオランダで、米国、中国からの投資も増加している。

 

 中国はトップ外交を展開し、上海協力機構の枠組みを利用して借款を実施。2013年には中国を起点に中央アジアから欧州までの経済圏創出を目指す「一帯一路」構想を打ち出した。実現手段としてアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱するなど、この地域への関与をさらに強めようとしている。

 

 ロシアと中央アジア諸国との関係は強力だ。工業製品の規格も類似している。2015年にはユーラシア経済連合(EEU)が発足し、カザフスタンとキルギスが加盟。共同市場の創出ではロシアの取り組みが先行している。

 

 韓国は、インフラ建設、繊維産業など多様な分野でこの地域に進出している。中国と同様、トップ外交が契機となって、企業の進出が盛んになっている。日系企業との協力事例もある。しかし、撤退事例も多い。

 

 トルコは中央アジアに繊維、建設、流通、小売りで強い基盤を持っている。最近ではトルクメニスタンで日本企業のパートナーとしての位置を確立しつつある。大型化学プラントの設計・調達・建設(EPC)事業をトルコ企業と日本企業がコンソーシアムを組んで受注する動きが活発化している。

 

<高まるカザフスタンの存在感>

 ウズベキスタンに進出している日系企業は16社。合弁でいすゞ自動車がサマルカンドで中・小型のバス、トラックを製造している。ネックは外貨規制で、売り上げを外貨送金するのが難しい。

 

 カザフスタンの日系企業は、外務省の資料によると拠点数が43201410月時点)となっているが、現地の日本商工会会員は約20社だ。これらの企業全てに日本人駐在員がおり、業種も資源関係から耐久消費財の販売、金融、物流まで多岐にわたる。1人当たりのGDP1万ドルを超え、本物志向が強い市場。中央アジアの中で市場経済化が一番進んでいる。国土が日本の7倍あるので、消費財販売の場合、ロジスティクスの構築が難しい。EEUに加盟しているので、ロシアに進出している企業にとっては、共通の市場として取り組むことができる。201511月末にはWTOにも正式加盟し、関税も徐々に下がっていく見込み。2週間以内の滞在ならビザがいらないのも便利だ。

 

 ウズベキスタンとカザフスタンでは中間層が育っている。日本の優れた製品のほか、都市開発、環境、高齢化に向けたサービスなどにビジネスチャンスがある。

 

 日本から中央アジアへの物流コストは高い。ロシア経由のほか、これまで中国経由が安かったが、値上がりしてきた。今後はイラン経由も選択肢の1つになるかもしれない。カザフスタンでは、韓国系の国際輸送業者が日本からの小口荷物も扱うという。富裕層向けのニッチな商売をする場合は検討の対象になるだろう。

 

(今津恵保)

(中央アジア、カザフスタン、ウズベキスタン)

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