農水産品の検疫検査率は50~100%-サンクトペテルブルク周辺の港湾セミナー・視察会(1)-

(ロシア)

モスクワ発、サンクトペテルブルク発

2016年01月20日

 ロシアのサンクトペテルブルク周辺の港湾では近年、ターミナルの拡張やIT化の進展によりコンテナ処理能力が高まっている。変化の著しい港湾ターミナルの最新状況を把握するため、ジェトロ・サンクトペテルブルク事務所は2015年10月15~16日に港湾セミナー・視察会を開催した。その模様を2回に分けて報告する。前編は、大サンクトペテルブルク港のペトロレスポルト(PLP)や第1コンテナターミナル(FCT)、モビーディック(MD)を管轄する企業のグローバル・ポートが説明するこれらのターミナルの特徴などについて。

<鉄道輸送がウスチルーガ港の強み>

 グローバル・ポートのビジネス部長のワシリー・シュリツェフ氏は、以下のように説明した。

 

 グローバル・ポートはロシアCIS・東欧地域で最大のターミナルオペレーターで、オランダのAPMターミナルズ傘下の企業。バルト海域、極東海域が主要活動地域だ。黒海沿海域については、ウクライナ南部のイリイチョフスク港のターミナルを購入する権利を有しているが、紛争の影響で凍結状態となっている。

 

 バルト海域においては、大サンクトペテルブルク港のPLPFCTMDといったターミナル(図参照、ターミナル概要は「ジェトロセンサー」20152月号記事参照)、さらには、ウスチルーガ港も運営している。極東海域ではボストチヌィ港の東方荷役会社(VSC)を所有している。極東海域での貨物取扱量はバルト海域の3分の1だ。

 大サンクトペテルブルク港とウスチルーガ港の主な相違点は輸送手段だ。ウスチルーガ港はサンクトペテルブルクから130キロほど離れていることもあり、港からの貨物輸送の観点から鉄道輸送に注力している。ロシア向けの輸入貨物の最終仕向け地はこれまでモスクワがほとんどだったが、最近はエカテリンブルクやノボシビルスクのドライポート(内陸港)という案件も増えている。ウラル以東が仕向け地の場合、自動車輸送では限界があり、鉄道輸送が有利になる。その点がウスチルーガ港の強みだ。

 

<長時間の検査ではリーファーコンセントに接続>

 PLPのターミナルは全ての種類の貨物への対応が可能だ。リーファーコンセント(冷凍コンテナ用の電源供給装置)は東欧で最大規模の3,630個。全ての手続きをIT化して電子的に処理し、紙媒体での提出をなくすことを目標としている。ただ、連邦動植物検疫監督局(ロスセリホズナドゾル)向けの書類は、いまだに紙での提出が要求されている。

 

 輸入に当たっての検疫の検査頻度は、肉と魚は100%、果物・野菜(冷蔵のもの)は50%程度、それ以外の貨物は1割程度だ。他方、豊富な輸入実績を持つ荷受け人への検査頻度は低い。

 

 貨物検査は軒下で行われるため、雨天でも濡れることはない。冷凍品検査に際し、2時間以上かかると想定される場合には必ずリーファーコンセントにつないでいるので、貨物が腐ったというクレームは一度も受けたことはない。事前に荷主から指示があれば、税関検査による荷崩れ対策にも対応できる。しかし、荷主に対して積み荷情報を照会しても、回答をもらえないケースが多く困っている。

 南北縦貫道路の南半分が完成したため、例えばトヨタ自動車の工場向けのアクセスが良くなった。北半分が完成すれば、日産自動車の工場などへの輸送も改善される。ターミナル内に、線路下を通過するためのトンネルが5年前に完成した。それまではターミナル内の貨物列車通過待ちに14時間もかかっていたが、これが解消された。

 

 MDの特徴は、コトリン島に位置しているため鉄道に接続していないこと。他方で、西部高速道路に隣接しているため、高速道路沿いに立地する企業(例えば、日産自動車や現代自動車)が主な顧客だ。ターミナルの蔵置容量は7,500TEU20フィートコンテナ換算個数)で、年間40TEUのコンテナの処理が可能。冷蔵(リーファー)コンテナは504個まで対応できる。ターミナルは小規模だが、その分、ターミナル内作業を効率的にできることが利点だ。

 

<時間を区切り船舶とトラックの出入りを調整>

 FCTプロトコル課長のマリーナ・カシリナ氏は、FCTの概要について以下のとおり説明した。

 

 FCTはコンテナ専用ターミナルで、1998年に設立された。コンテナ処理能力はバルト海域で最大の年間125TEUに上り、100TEU以上の処理が可能なターミナルとしては世界最北にある。

 

 ターミナルは24時間を8コマ、各3時間に分けて、入港船舶とトラックを管理している。顧客が情報システムに自らアクセスし、希望する時間を指定することができる。港の入り口が狭く1ヵ所しかないため、船舶の出入港は一方通行で、入港時間と出港時間が6時間ごとに定められている。フィーダー船へ積み替えるので、入港する船舶の積載量は平均で1,700TEU、最大で3,000TEU。冬は港が氷結するため、砕氷船の誘導が必要となる。

 

 鉄道については、11,500台の貨車の取り扱いが可能で、紙や木材など輸出向け貨物が中心だ。他方、線路がターミナル内を横切っているため、貨物列車の通過待ちに1回当たり15分程度を要する。

 

 リーファーコンセントは2,905個で、リーファーコンテナの検査率は110%に達する。肉、魚、野菜・果物などの貨物は、何回も検査しているためだ。税関ではレントゲン検査システムを導入しており、製品の材質まで分かる最新技術を備えている。

 

(齋藤寛、宮川嵩浩)

(ロシア)

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