タミル・ナドゥ州で約100年ぶりの豪雨-生活・経済面へ深刻な影響-
(インド)
チェンナイ事務所
2015年12月14日
南インド東海岸側は10月下旬ごろから雨期(北東モンスーン)に入り、タミル・ナドゥ(TN)州では11月に連日の大雨に見舞われた。TN州における11月の月間降雨量は、観測史上最多となった1918年の1,088ミリに次ぐ1,018ミリを記録し、約100年ぶりの大雨となった。チェンナイ市内などでは多くの地域で道路が冠水し、通勤や移動が困難となるなど、当地で操業する企業や市民の生活に大きな影響を及ぼした。
<工場の敷地内や道路が浸水し、臨時休業も>
インド気象庁によると、10月1日から12月2日までのTN州全体における降雨量は、例年の約1.6倍に達した。同期間中に最も降雨量が多かったのは、チェンナイ市中心部と、カンチープラム、ティルバッルールの2県。いずれもTN州北部に位置しており、チェンナイ市中心部は州内で最も事業拠点が多く、カンチープラム県にはオラガダム、バラム・バダガル、マヒンドラ・ワールド・シティーなど、日系を含む多数の工場が立地しており、同州産業・経済拠点の大半がこれらの地域に集積している。これら地域での期間中の降雨量は例年の約2.7倍に上った。
被害が特に大きかったのは11月16、17日と11月30日~12月3日で、周辺道路や敷地内への浸水により、臨時休業とする工場・事務所が相次いだ。TN州政府もこの状況を受け、12月3、4日を臨時公休日とした。
<チェンナイ市中心部など市民生活にも被害>
中でも、チェンナイ市中心部での被害は深刻だ。多くの地域で道路が冠水したほか、12月1日ごろから市内のほぼ全域で停電や断水、携帯電話およびインターネットが不通となるなど生活インフラへの影響が深刻になったため、一時的にホテルへ避難する日本人駐在員も多かった。
また、今回の洪水は空の便にも被害を及ぼした。連日の大雨により、滑走路が冠水して旅客機の離着陸ができず、12月1~5日は全ての便が運休、空港は閉鎖された。6日から部分的に運航が再開され、8日には完全に運航再開となった。「ヒンドゥー」紙(12月8日)によると、合計で1,741便が空港閉鎖による影響を受けたという。
地域経済にも大きな影響を与えている。現地報道機関は、「12月1~7日の間、当地に拠点を構える多くの完成車メーカーの工場が生産の全部もしくは一部を停止している」「サプライチェーンの寸断により、必要な部品が調達できていない」などと、企業活動に深刻な影響を与えている実態を報じた。
<州政府や企業が相次いで資金援助>
TN州政府は今回の洪水被害を受け、避難所の設営や避難民に対する非常食の配給、90を超える医療用キャンプの設置など各種措置を講じている。TN州政府プレスリリース(12月3日)によると、同日時点で4,300を超える避難所が設置され、約94万人の住民が避難所生活を送っているという。
ジャヤラリータTN州首相は11月23日、インド中央政府のナレンドラ・モディ首相に対し、今回の洪水被害に対する資金援助を求める書簡を提出した。中央政府はこれを受け、当面の資金として94億ルピー(約169億円、1ルピー=約1.8円)の援助を行ったほか、自然災害対応資金としてさらに100億ルピーを援助した(TN州政府プレスリリース12月3日)。このほか、オディシャ州、ビハール州も資金援助の意向を表明し、それぞれ5,000万ルピーの援助を行うとしている。
またTN州政府は12月8日、今回の災害を受け義援金窓口の設置を発表した。同日付のTN州政府プレスリリースによると、地場大手の二輪車メーカーTVSが5,000万ルピー、農機メーカーTAFEが3,000万ルピーを拠出。いずれもTN州を発祥の地とする大手企業だ。そのほか、チェンナイ郊外イルンガトゥコッタイ工業団地に生産拠点を有する現代自動車も2,000万ルピーの義援金を拠出したという。
今後の気象状況によっては再度、大雨がTN州を襲う可能性もある。当地における企業活動への影響や駐在員・社員の安全対策などについて、引き続き警戒が必要だ。
(前田雄太、A・P・スリクマール)
(インド)
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