新政令で最低賃金の上昇率を公式化-2016年は11.5%を基準に各州が発表-
(インドネシア)
ジャカルタ事務所
2015年12月21日
インドネシアの主要各州は、2016年の最低賃金を発表した。発表に先立つ政令2015年78号により、最低賃金の上昇率はインフレ率とGDP成長率の和で算出することが規定され、2016年の上昇率は11.5%が基準値となった。各州は基準値を基に、州ごとの最低賃金を制定した。これまで毎年制定されてきた適正生活必需額(KHL)は、今後は5年に1度見直される。首都近郊の賃金上昇を受けて、労働集約型産業を中心に相対的に賃金の安い中ジャワ州に、注目が集まっている。
<首都ジャカルタなどは300万ルピア台に>
主要各州は2016年の最低賃金を、11月23日までに発表した。10月23日に発令された賃金に関する政令2015年78号により、2016年の最低賃金上昇率の基準値は11.5%とされている。同政令を基に、ジャカルタ特別州は最低賃金を14.8%増の月額310万ルピア(約2万7,280円、1ルピア=約0.0088円)とした。日系企業をはじめ多くの企業が集積する西ジャワ州の最低賃金は、ブカシ県で326万1,375ルピア、カラワン県で国内最高の330万505ルピアとなった。主要各州の最低賃金は表1のとおり。
<インフレ率と成長率の合計で算出>
最低賃金の発表に先立ち、政府は政令2015年78号で最低賃金の上昇率を公式化し、インフレ率と実質GDP成長率を基に算出することを決定した。同政令第41条よると、最低賃金は労働者にセーフティーネットを提供するために制定されるもので、基本給と固定手当で構成される。第44条では、最低賃金上昇率は、直近1年間のインフレ率(前年9月~当該年9月)と、実質GDP成長率(前年第3四半期~当該年第2四半期)の和と規定した(表2参照)。
<政令の撤回を求めるデモが発生>
一方、これまで毎年設定されていた適正生活必需額は、同政令第43条で、5年に1度の見直しに変更された。適正生活必需額とは、独身の労働者が1ヵ月間適正な生活を送るための月額基準値だ。最低賃金が適正生活必需額を下回る場合、当該地域の長は4年以内に最低賃金が適正生活必需額を上回るよう最低賃金の上昇幅を調整する(第63条)。また各州の知事は、第44条で規定される最低賃金を基に、州別の最低賃金を設定する(第45条)。さらに、各市・県が個別に賃金を設定することも可能だ(同条)。経営者団体と労働組合の協議結果に基づき、各州知事は業種ごとの最低賃金を設定することもできる(第49条)。今回の最低賃金の公式化によって、経営者は翌年の賃金上昇率を予想できるようになった。ハニフ労働相は地元紙で、「公式化で予見性を高めることは経営者と労働者双方に安定性をもたらし、設備投資を促して雇用創出につながる」と述べた。
他方、最低賃金の発表を受けて、インドネシア労組組合連合(KSPI)は11月24~27日に政令78号の撤回を求めるデモを実施した。首都圏の工業団地では労働者による抗議行動が行われた。全般的には大きな混乱に至らなかったが、一部の工業団地では従業員にデモ参加を強要する「スイーピング」が行われ、一時的に操業停止に追い込まれる事例も報告された。
<賃金が安い中ジャワ州に注目>
毎年上昇するインドネシアの労働賃金は、企業にとって深刻なコスト要因だ。ジェトロの在アジア・オセアニア日系企業実態調査でも、近年は最大の経営課題の1つに挙げられる。地元紙によると、最低賃金が最も高い西ジャワ州では、地場企業などが転出する動きもみられる。他方、ジャワ島内の賃金格差は大きく、中ジャワ州スマラン県の2016年の最低賃金は161万ルピアで、西ジャワの約半分だ。また、地元紙によると、労働集約型産業を中心に外国から中ジャワ州への投資が増加しており、2014年は繊維63件、家具製造45件などの投資案件があった。産業が集積する西ジャワ州と中ジャワ州との高速道路が未整備なことや、有力な工業団地が少ないことなどの課題はあるが、賃金の安い、中ジャワ州が注目の地域となっている。
(山城武伸、デシー・トリスナワティ)
(インドネシア)
ビジネス短信 b2c2baf1e14acd31