高成長続くバングラデシュ、地場の縫製業に強み-南西アジア最新経済動向セミナー(2)-

(バングラデシュ)

アジア大洋州課

2015年12月09日

 ジェトロが開催した「南西アジア最新経済動向セミナー」報告の2回目は、1億6,000万人の人口を抱えるバングラデシュについて。高成長が続き、日系進出企業も増加傾向にあるが、政治的安定性に欠けることとエネルギーの脆弱(ぜいじゃく)さがカントリーリスクとして紹介された。

1人当たり名目GDP1,300ドル台>

 ジェトロの河野敬ダッカ事務所長はバングラデシュについて、次のように講演した。

 

 シェイク・ハシナ政権は、前回の総選挙での野党のボイコットにより、野党不在の国会運営を続けている。2019年に次の総選挙が予定されており、それまで急ピッチでインフラ開発を推進するとみられる。貧困率はいまだ22.4%(バングラデシュ中央銀行、2014年)と高いものの、国連が2000年に掲げたミレニアム開発目標に照らした成果では、バングラデシュは最も貧困率を下げることに成功している。1人当たりの名目GDP1,300ドル台まで伸び、実質GDP成長率も、過去10年間6%台前後で安定的に推移している。ただ、政府としてはこの状況を「6%のわな」と呼び、6%では足りず8%台まで伸ばすことを目指している。恒常的な貿易赤字が続いているが、海外の出稼ぎ労働者の本国送金がこれを補い経常収支は黒字となっていることが特徴的だ。貿易動向をみると、バングラデシュは衣料品の世界輸出シェアで中国に次いで2位(平成24年度経済産業省報告書)であり、輸出の8割をアパレル製品が占めている。縫製業に強いミャンマーやカンボジアと比較すると、輸出志向の縫製工場の数はミャンマーが約200棟、カンボジアが約500棟なのに対し、バングラデシュは地場企業が多いため、約5,600棟もあり、同国の強みとなっている。

 

 地場産業が強いこともバングラデシュの特徴の1つだ。インド市場と類似しており、多くの産業分野で地場企業が上位を占めるため、地場のグループ企業と提携することがビジネスを円滑に進める手段の1つだ。消費市場は拡大しており、安定した経済成長により中間層が増大している。20157月には、世界銀行がバングラデシュを「低中所得国」の1つに加えた。可処分所得が増え、耐久消費財などを含むさまざまな商品の需要が高まることが見込まれる。

 

<政治の安定とエネルギー確保が課題>

 日系企業はここ数年で増加傾向にあり、現在236社が進出している。ダッカだけでなくチッタゴンに拠点をおく企業も多い。進出日系企業のタイプはおおむね3種類に分けられる。労働集約産業の生産拠点として活用する企業、巨大な消費市場を狙う企業、そして低所得者層をターゲットとするBOPビジネスや社会的責任(CSR)活動などを行う企業だ。労働集約産業は、アパレルや皮革分野が特に多い。内需向けは多様な分野の企業が出ているが、まだ数が少なく、進出する余地がある。BOPビジネスを行う企業にとっては、地方にネットワークがあるNGOなどが多数あり、多様なパートナーと組むことが可能で、事業を展開しやすい環境となっている。

 

 バングラデシュは人口ボーナス期を迎えており、2032年にはピークになることから、今がこの拡大する巨大市場に進出すべきタイミングだ。

 

 今後のカントリーリスクとしては大きく2点ある。1点目は、政治的安定性に欠けることだ。これまで続いてきた2大政党制が、現政権で揺らいでおり、原理主義など新たな政治的勢力が台頭する恐れがある。2点目は、エネルギーの脆弱さがある。国産ガスが今後15年で枯渇する恐れがあり、政府がどのようにエネルギー資源を確保していくか注目される。

 

 講演後の質疑応答では、バングラデシュでなぜ造船業が発達しているかについて質問があった。河野所長は、バングラデシュは船の解体業者が多く、そこから造船業が発展したこと、隣国インドの内航船の需要が高いこと、溶接作業など、労働集約的な作業コストで優位にあることの指摘をした。また、今後の自由貿易協定(FTA)交渉についての質問に対し、バングラデシュは国内での税金の徴収がうまくいっておらず、関税が重要な収入源であるため、積極的に関税撤廃へ動きにくい事情を説明した。

 

(和田周)

(バングラデシュ)

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