マクリ新政権、外貨規制を緩和
(アルゼンチン)
サンパウロ事務所
2015年12月25日
プラットガイ大蔵・財務相は12月16日、外貨規制の緩和策を発表した。10日に発足したばかりのマクリ新政権が緩和に踏み切った背景には、今後4週間程度で新たに150億~250億ドル規模の外貨確保のめどがついたことがある。今回の措置は通貨切り下げにつながるためインフレ懸念はあるものの、アルゼンチン経済の正常化に向けた一歩としておおむね好意的に受け止められている。
<輸入支払いの事前許可申請も不要に>
外貨規制緩和の詳細は、12月17日付の中央銀行コミュニケA5850号で公布された。それによるとまず、個人および法人は1ヵ月当たり200万ドルを上限に外貨を自由に買い求めることができるとしている。ただし、現金で購入できるのは500ドルまでで、それ以上は銀行口座を利用する必要がある。これまでは、公共歳入連邦管理庁(AFIP)を通じて外貨購入の許可申請が義務付けられるとともに、1ヵ月当たりの購入額も2,000ドルまでに制限されていた。また、国内に持ち込まれた外貨については、最低1年間、国内の銀行口座に預ける義務が課されていたが、今回の措置で預金の義務期間が120日間に短縮された。
貿易に関しては、輸入取引の支払いに対する中央銀行への事前許可申請の義務が廃止された。これにより、12月17日付以降の新規の財・サービス輸入取引の支払いのみならず、国内の金融機関などが発行した信用状(L/C)を有する同日以前の取引の支払いも、規制しないとしている。
これまでの規制により未払いとなっている輸入取引については、即時全額決裁が必要な事業者には国債の引き渡しで対応するほか、現金での支払いを希望する事業者向けには、次の返済スケジュールが定められた。すなわち、財輸入の場合に輸入業者が支払い可能となるのは、a.2015年12月31日までは200万ドルが上限、b.2016年1月から6月にかけては1ヵ月当たり450万ドルが上限、c.2016年6月以降は制限なし。サービス輸入の場合は、a.2016年2月までは200万ドルが上限、b.2016年3月から5月にかけては1ヵ月当たり400万ドルが上限、c.2016年6月以降は制限なし。
輸出取引による入金については、単一自由為替相場で行う義務付けは継続される。また、企業の利益送金については、事前許可取得の必要はなく、規制はされない。
さらに、12月17日付で公布されたAFIP決議第3819号によって、海外でのクレジットカード使用や旅行目的の外貨購入に対する課税(35%)や、金融機関には預金しないものの貯金目的で外貨を購入した場合の課税(20%)が撤廃された。
<外貨準備改善のための融資確保が背景に>
外貨流出を防ぐために前政権が2011年10月末ごろに開始した金融・為替取引の制限や一連の監視の強化などを含む為替管理は、外貨準備を増やす意味では逆効果をもたらしたとされる。中央銀行が公表している外貨準備高は、2011年11月初めには474億ドルを記録したが、2015年12月初めには254億ドルまで激減した。
今回の外貨規制緩和措置は、11月の選挙で当選したマクリ大統領の選挙公約に含まれていた。政府は、今後数ヵ月で150億~250億ドルの外貨を確保できたため、今回の緩和に踏み切ることができたとしている。具体的には、一部を除き農産品・工業製品に課せられていた輸出税の減免およびペソ切り下げ策によりアルゼンチン産品の輸出増加が見込まれるため、今後3週間以内に1日当たり4億ドル、合計60億ドルが流入すること、また、米系およびスペイン系の銀行から約80億ドルの融資が近日中に成立する見通しが立ったことにある。さらに、中国との通貨スワップで得ている110億ドル相当の人民元の一部を米ドルに変換することについて中国人民銀行との交渉が成立し、30億ドル相当が確保できているという。
元中央銀行総裁で他政党の大統領候補の経済アドバイザーを務めたマリオ・ブレヘル氏やマルティン・レドラド氏らは、今回の政府の取り組みをポジティブに評価した。しかし、外貨規制の緩和は通貨切り下げにつながり、国内で物価上昇を引き起こす可能性があることについては懸念を表明している。
(山木シルビア)
(アルゼンチン)
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