外資買収法40年ぶりに改正、不動産などの管理強化

(オーストラリア)

シドニー事務所

2015年12月25日

 オーストラリア政府は12月1日、40年ぶりに外資買収法を改正した。スコット・モリソン財務相は、オーストラリアの国益にかなう外国投資は歓迎するとして従来のスタンスを維持する一方で、外国人投資家による不動産や農業分野への投資は適切に管理されるべきだ、との見解を示した。

<罰則や手数料など4点が柱>

 オーストラリアの外資買収法が121日、40年ぶりに改正された。今回の改正では、(1)既存政策を条文として規定、(2)外国人、関係者、相当の権利、関連する権利といった概念の導入や変更、(3)ルールの明確化、(4)罰則や手数料導入、といった手続きの4点が大きな柱となっている。

 

 外国人投資家が空き地の居住用や商業用不動産を取得する場合は、金額にかかわらず外国投資審査委員会(FIRB)の事前認可が必要となっている。開発された商業用不動産については、自由貿易協定(FTA)締結国(チリ、中国、日本、ニュージーランド、韓国、米国)の投資家は109,400万オーストラリア・ドル(約9517,800万円、豪ドル、1豪ドル=約87円)以上、それ以外の国の投資家は25,200万豪ドル以上、また農地については、FTA締結国ではチリ、ニュージーランド、米国の投資家は109,400万豪ドル以上、中国、日本、韓国の投資家は1,500万豪ドル以上が、FIRBの事前認可が必要となる。なお、鉱山作業場などについてはチリ、ニュージーランド、米国の投資家は109,400万豪ドル以上、それ以外の国は全ての投資に対してFIRBの事前認可が必要となっている。

 

<刑事罰に加えて民事制裁金も>

 今回の改正では、25,000豪ドルから10万豪ドルの申請手数料が導入された。例えば、農業ビジネスに関する申請については、取得対価が10億豪ドル以下は25,000豪ドル、10億豪ドルを超える場合には10万豪ドルの申請手数料がかかることになった。また居住用不動産は、取得価格が100万豪ドル以下であれば5,000ドル、100万豪ドル超200万豪ドル未満の場合は1万豪ドル、200万豪ドル以上300万豪ドル未満の場合には2万豪ドルとなり、さらに、100万豪ドル増加するごとに手数料は1万豪ドルずつ上乗せされる。なお、申請手数料は物価指数を基準に毎年度(7月~翌年6月)更新される。

 

 また、罰則も強化されている。例えば、FIRBの許可なく居住用不動産を取得した場合、個人では135,000豪ドルの罰金もしくは3年以下の懲役、法人では675,000豪ドルといった刑事罰に加えて、民事制裁金として購入価格か市場価格の10%が科せられることとなる。企業買収や非居住用不動産の取得においても、居住用不動産と同様の刑事罰が科せられ、民事制裁金は個人が45,000豪ドル、法人では225,000豪ドルとされている。

 

<外国投資に対する基本スタンスは維持>

 モリソン財務相は121日のメディア発表で、「オーストラリアは国益に反しない限り、外国投資を歓迎している。外国投資を受け入れない場合には、わが国の生産、雇用、所得は現在の水準よりも低くなるだろう。しかし、オーストラリア全体の利益となるよう、外国投資は適切に監視される必要がある。外国投資規則は効果的に効力を発することができるように強化される必要がある。外国投資家で居住用不動産の購入規制を犯した者には厳しい罰則が科される。オーストラリア税務局が外国人による居住用不動産投資に関する全ての所掌を所管する」とし、問題視されていた外国人による居住用不動産の不法取得に対して強い態度で臨むことを表明した。

 

 一方、農業分野について、同財務相は「私たちは外国保有のオーストラリアの農業生産に対して監視を強化し透明性を高めているが、農業分野に対する外国投資の役割は経済的利益ももたらす。外国人の農地の所有について管理簿を作成することとし、外国人投資家による農地の所有に対するFIRBの審査基準を1,500万豪ドルに引き下げた。また、農業ビジネスについては5,500万豪ドルをしきい額とした」として、オーストラリアに経済的効果をもたらすとの認識を示す一方で、監視や管理は強化するとの姿勢を示した。

 

(平木忠義、ケビン・ギブ)

(オーストラリア)

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