TPPの利用に高い関心-2015年度米国・カナダ進出日系企業実態調査(2)-

(米国、カナダ)

米州課

2015年12月18日

 調査報告の後編。2014年後半に起きた米国西海岸の港湾騒動で現地日系企業は航空輸送などでの対応を強いられたものの、今後、利用する港のシフトを検討するといった回答は少数だ。環太平洋パートナーシップ(TPP)については、発効後の利用を検討する企業が4割を超えた。TPPでは、貿易円滑化や市場アクセス拡大などに期待が寄せられている。市場拡大を見込む分野別としては、医療、環境、IT・クラウド・モバイルに回答が集まった一方、石油・天然ガスは順位を落とした。

<西海岸港湾騒動は中長期的には影響せず>

 ジェトロが911日から1016日にかけて行った、米国とカナダに進出している日系企業1,345社へのアンケー調査(有効回答769社、有効回答率57.2%)では、2014年秋から2015年にかけて続いた西海岸の港湾騒動について、73.1%の企業が「影響があった」と回答した。「航空輸送へ切り替え」「貨物の前倒し」「他港へのシフト」といった対応策が多く取られた(図1参照)。ただ騒動が終わった今、半数以上の企業は今後について「特に検討していない」と回答している。「西海岸に製造拠点を持つ以上、コスト面で優位性がみられない限り現状維持」(食品)、「(5年間の労働協約で締結されたことから)だいぶ先のことで、対策を打つのは現実的でない」(化学品/石油製品)などの声が聞かれ、「他港へのシフト」や「現地調達の拡大」といった見直しには至っていないようだ。

TPPでは貿易円滑化や市場アクセス拡大に期待>

 米国では前年と比較して、多くの自由貿易協定(FTA)の利用率が上昇した。特にカナダ、メキシコ、韓国との輸出入においては高い利用率が示された(表参照)。米韓FTAの利用率は輸出(34.5%)、輸入(52.9%)となった。カナダ進出企業でも1月に発効したカナダ韓国FTA42.9%(7社中3社)の利用率となった。TPPを利用した日米間の貿易については、「利用を検討中」という企業が4割を超え(輸出42.9%、輸入45.3%)、カナダでは、日本との輸出入でTPP利用を検討する企業が3割超となった(輸出30.8%、輸入37.8%)。ベトナム、マレーシアから米国への輸入に際しては、「(TPP)利用を検討中」の企業が5割を超えた(本調査は、協定暫定文案が未公開の段階で実施)。

 TPPの分野のうち何に期待するかについては、「税関当局および貿易円滑化」と「物品市場アクセス」を挙げる声が多い(図2参照)。回答企業からは、「税関で止められ、タイムロスになることが散見されるので、TPPにより税関手続きが円滑化すれば事業にはプラス」(化学品/石油製品)、「港湾問題は大きい。対日輸入でTPPのメリットは多少あると思っている」(一般機械)、「日本から輸入している物品の関税低減あるいは早期撤廃」(食品/農水産加工、化学品/石油製品)、「関税の削減により生産地オプションが多様化する」(輸送用機器部品)などの声が聞かれた。カナダでも、米国同様にこれらの分野への期待が大きい。

<州別ではテキサス、分野別では医療や環境に回答集まる>

 米国で市場拡大を見込む地域では、テキサスとカリフォルニアの上位2州は前年と同じだった(添付資料参照)。特にテキサスは、同州の回答企業が42社なのに対して全体では239社に上り、州外の企業の期待が高い。これに続く第2集団(ジョージア、ニューヨーク、オハイオ、テネシーなど)は多少の順位変動はあるものの、おおむね前年と同じだった。

 

 米国において今後23年で市場拡大を見込む産業分野は、「医療」「環境」の上位2つは前年と同じながら、「石油・天然ガス」は回答数を大きく減らし3位から5位に下がった(図3参照)。一方で、「製造業において、遠隔モニタリング、ビッグデータ活用の機会が増える」(一般機械)など、モノのインターネット(IoT)への関心の高まりからか、「IT・クラウド・モバイル」は順位を上げた。カナダでもおおむね同じ回答結果が得られ、「環境」「医療」「健康」「IT・クラウド・モバイル」の順に回答が集まった。

(藪恭兵)

(米国、カナダ)

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