不安定な為替が経営に大きく影響-2015年度在ロシア日系企業実態調査-

(ロシア)

欧州ロシアCIS課

2015年12月25日

 ジェトロがロシア進出日系企業を対象に実施したアンケートによると、2015年の営業利益見込みを「黒字」と回答した企業の割合は半数に届かなかった。また、今後1~2年の事業展開の方向性を「現状維持」とした企業は、2014年度調査(29.8%)より20.2ポイント増の50.0%となるなど、不安定な為替の影響を受け積極的な事業展開が難しいことが分かった。

2015年の黒字見込みは半数に届かず>

 ジェトロは2015107日~116日にかけて、3回目となる在ロシア日系企業実態調査を実施し、93社(製造業26社、非製造業67社)から回答を得た(有効回答率85.3%)。

 

 それによると、2015年の営業利益見込みは「黒字」(49.5%)が最も多かったが、前回(2014年度調査)と比較して3.7ポイント減で、3回の調査で初めて半数を割った(図1参照)。他方、前年比での改善・悪化の割合は、「改善」が前回調査よりも微増し35.5%となった。

 営業利益の改善要因として、「現地市場での売り上げ増加」(39.4%)は前回調査から大きく減少し、市場の冷え込みを反映した(図2参照)。一方、コストについては「その他支出(管理費、光熱費、燃料費など)の削減」(36.4%)、「調達コストの削減」(27.3%)がともに前回に比べ大きく回答数を伸ばした。また、値上げで営業利益の改善を図る声も聞かれた。悪化要因としては、「為替変動」(71.0%、前回59.4%)が最も多かったほか、「調達コストの上昇」(35.5%、前回21.9%)など為替変動に関連する項目も回答企業が増加した。

 2016年の営業利益は2015年と比べて「改善」を見込む企業が最も多かったが(44.1%)、前回調査からは5.9ポイントの下落をしており、ロシア市場の回復に対する見方は依然として慎重のようだ。これに対し「横ばい」(37.6%)は前回調査から5.7ポイント増加した。「改善」要因は依然として「現地市場での売り上げ増加」(70.0%、前回74.5%)が最も多いが、「販売効率の改善」(32.5%、前回29.8%)や「支出の削減」(20.0%、前回19.1%)など、コスト削減も引き続き改善要因として指摘されている。「悪化」要因には、「現地市場での売り上げ減少」(70.6%、前回75.0%)や「為替変動」(47.1%、前回56.3%)が挙がった。

 

<積極的な展開は難しく我慢の時>

 今後12年の事業展開の方向性を「拡大」と回答した企業は44.6%と、前回(66.0%)より大幅に減少した(図3参照)。他方、「現状維持」は50.0%と大幅に増加した(前回29.8%)。為替相場の不安定さから積極的な事業展開が難しい局面にあるようだが、「拡大」と回答した理由を尋ねたところ、「売り上げ増加」が最多の80.5%(前回80.6%)で、「成長性・潜在力の高さ」(68.3%、前回51.6%)が大きく伸び、ロシア市場の潜在力に対する期待の高さがうかがわれる結果となった。

 経営現地化の取り組みとして「現地化を意識した現地人材の研修・育成の強化」(56.5%)、「現地人材の登用」(45.7%)が多く挙がったが、前回からはそれぞれ6.9ポイント、12.4ポイント減となった。このほかの取り組みも軒並み減少する一方、「現地化の取り組みはしていない」(12.0%)が前回より6.6ポイント増となり、取り組みの鈍化傾向が顕著となった。また、経営現地化の問題点では、依然として「現地人材の能力・意識」(52.2%、前回59.1%)、「幹部候補人材の採用難」(34.8%、前回51.6%)が多いが、いずれも大きく減少した。現地サイドの課題には一定の改善がみられる。

 

<ロシアの魅力は潜在的市場性>

 投資環境全般でのメリットは、「市場規模/成長性」(82.6%)の回答が最も多かった。前回(83.9%)、前々回(91.9%)よりは低下しているが、ロシア市場の魅力は「潜在的市場性」であることが浮き彫りとなった。投資環境全般のリスクは「不安定な為替」(84.8%、前回78.5%)との回答が最も多く、ルーブル安の進行に伴う影響を反映する結果となった。他方、「人件費の高騰」(29.3%、前回54.8%)はその割合を大きく下げるなど、逆の意味で為替変動の影響を受ける例もみられた。

 

 財務・金融・為替面でも、「現地通貨の対ドル・対ユーロ為替レートの変動」(80.4%、前回74.2%)が最も多くなったほか、「現地通貨の対円為替レートの変動」(41.3%)も前回より13.3ポイント増となり、ルーブル下落の影響が多方面でみられる。他方、金融システム、規制面では改善の兆しがみられる部分もある。現地生産の課題でも為替変動の影響を反映して、「調達コストの上昇」(32.0%)が23.7ポイントの大幅増となった(図4参照)。

 貿易制度面の問題点では、「手続きの煩雑さ」(56.5%)、「通関に要する時間」(40.2%)を指摘する声が依然として多い(図5参照)。他方、「輸入関税が高い」(21.7%)、「検査制度が不明瞭」(10.9%)、「非関税障壁が高い」(6.5%)など、前回に比べ大きく改善の兆しがみられる項目もあった。

(田端義明)

(ロシア)

ビジネス短信 54a98e333ff3b0ae