経済改革進むパキスタン、スリランカ経済も好調-南西アジア最新経済動向セミナー(3)-

(パキスタン、スリランカ)

アジア大洋州課

2015年12月10日

 ジェトロの「南西アジア最新経済動向セミナー」報告の最終回は、パキスタンとスリランカについて。パキスタンは社会・経済の不安定さがあるものの、経済改革やインフラ整備を推進しており、中東とのつながりの強さがあり進出企業は黒字企業が多いという。スリランカは経済が好調で、1人当たりGDPが約3,600ドルと東南アジア諸国に近づき、消費も拡大中と報告があった。

<パキスタン:今後20年続く人口ボーナス期>

 まず久木治カラチ事務所長がパキスタンについて、次のように説明した。

 

 パキスタンは世界6位の約18,900万人の人口を抱え、平均年齢は23.2歳と若く、国連推計では2050年に27,000万人に達するという人口大国だ。

 

 若年労働者が豊富な人口ボーナス期が今後20年間くらいは継続する見込みだ。政治的には、選挙による初の民主的な政権交代によって単独過半数を獲得したパキスタン・ムスリム連盟ナワーズ派が政権を運営し、経済改革やインフラ整備を推進している。イスラム過激派によるテロ事件が発生したり、野党による反政府運動が過熱し、社会・政治的不安定さはあるが、過去5年間の経済成長率は34%台を維持し、インフレ率は3%台後半に抑えられている。

 

 日本からの距離は約6,900キロで、カラチを中心として円を描くと、日本と同じ円内には欧州とアフリカが入り、それらの地域への輸出を狙った製造拠点としての活用可能性がある。湾岸諸国とはイスラム教国同士であり、海外出稼ぎ労働者が多く働いているために、経済的つながりが強い。この海外出稼ぎ労働者による送金は年間約180億ドルに上り、貿易赤字を穴埋めすると同時に、国内消費市場の活性化に役立っている。さらに中国との関係がこれまで以上に緊密になっており、中国政府が推進する「一帯一路」構想にパキスタンが組み込まれている。パキスタンも通ってアラビア海に抜ける経済回廊(道路・鉄道・石油パイプライン)が計画されており、約460億ドルの関連支援が20155月の習近平国家主席のパキスタン訪問時に発表された。

 

 日本との経済関係では、日本が繊維製品を輸入し、自動車や一般機械を輸出する構造だ。進出日系企業は77社と少ないが、しかしながら、ジェトロの日系企業実態調査によると、黒字企業の割合がアジアで最も高く、従業員への年間支払額が多い。これは事業が順調なことを示している。

 

<スリランカ:内戦終結後は年率68%の経済成長>

 続いて、小濵和彦コロンボ事務所長がスリランカについて説明した。

 

 スリランカの人口は約2,000万人と南西アジアの他国と比較すると小さい国かもしれないが、無視できない国だ。南西アジアには珍しい仏教国であり、2009年の内戦終結後は社会が安定し、実質GDP成長率は年68%と好調だ。20151月の大統領選でシリセナ氏が現職を破り、それまでの中国依存を修正し、8月には国会議員選挙が行われ、シリセナ政権を支える政党が多数獲得して政治が安定した。

 

 スリランカの発展レベルは東南アジアに近い。1人当たりGDPは約3,600ドルとインドネシアやフィリピンを超えるレベルで、南西アジア域内ではトップだ。また、8つの世界遺産やアーユルヴェーダ(インド亜大陸の伝統医学)が有名で、内戦終結後は観光客が急増しており、貿易や投資の促進にも好影響を与えている。

 

 投資環境については、従業員の給与がアジアでは低位グループにあり、欧州や中東航路のコンテナ定期船が立ち寄るためにコンテナ輸送費が安く、低付加価値品の製造でもこれらのコストが低いために利益を出しやすい面がある一方で、高い電気代がコスト押し上げ要因となっている。

 

 しかし、スリランカはインド洋の真ん中にあって日本と欧州や中東アフリカとの中間にあるという地理的優位性があるほか、天然ゴムやココヤシ、紅茶など豊富な天然資源を活用したビジネスモデル、物流ハブや南西アジア諸国へのゲートウエーとしての可能性などが考えられる。

 

 講演後の質疑応答では、スリランカの主要経済指標について、貿易収支は約82億ドルの赤字で経常収支は約20億ドルの赤字であり、対外債務残高のGDP比は2014年に57.4%となっており、債務不履行に陥る可能性はないかとの質問があった。これに対して小濵所長は、海外労働者の送金や観光収入が約94億ドルあって経常収支の赤字縮小に貢献するなどして、マクロ経済運営は比較的安定を保っているとした上で、現政権はこの債務状況を楽観視することなく、新たな借款ベースのプロジェクト実施には非常に慎重な姿勢を示しており、貿易収支の改善につながる輸出志向型の産業振興、投資誘致を重視する政策を実施していくだろうと説明した。

 

(石塚賢司)

(パキスタン、スリランカ)

ビジネス短信 1baf5604105c863d