並行輸入の民事判決、商標権の権利者に有利な傾向に-ロシア・ユーラシア経済連合知的財産セミナー(3)-

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)

欧州ロシアCIS課

2015年11月17日

 ロシア・ユーラシア経済連合知的財産セミナーの報告3回目。ロシアの知財専門家が、ユーラシア経済連合(EEU)加盟国における商標登録の留意点とロシアにおける並行輸入の動向について解説した。EEU域内での商標登録の際には、ラテン文字のほか、比較的普及しているロシア語のキリル文字での登録が望ましい。ロシアの並行輸入に関する民事裁判では、商標権の権利者側に有利な判決が出る傾向にある中、並行輸入を合法化する議論も出ているという。

EEU統一商標にはラテン文字とキリル文字を登録>

 ロシアの弁護士事務所ゴロジスキー&パートナーズのパートナー、ウラジミル・ビリューリン氏による講演概要は以下のとおり。

 

 EEU加盟各国(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)における商標関連制度の内容は同一ではないが、基本的に類似している。いずれも登録主義を採用しており、審査は形式審査と実体審査の2段階ある。実体審査では、絶対的理由と相対的理由に基づいて審査される。分割出願も可能だ。全てのEEU加盟国がマドリッド協定議定書に加盟している。

 

 ロシアでの商標登録は先願主義であり、出願前の使用実績は求められない。(模倣品の水際対策のため)ロシアの税関で商標を登録する場合は、事前にロシア特許庁で商標権を取得しておくことが必要だ。広告に外国語を使用する際には、その言葉の商標登録が義務付けられる場合もある。

 

 ロシアでの商標登録出願数は年間約5万件で、そのうち日本からの出願数は約1,000件。登録可能なものは、言葉、絵、三次元の立体、これらの組み合わせ、色などだ。ひらがな、カタカナ、漢字でも登録が可能だが、日本語の文字は、言葉というよりも絵として認識されるだろう。

 

 通常ロシア語で使われるキリル文字だけでなく、ラテン文字でも登録しておいた方が良いだろう。ロシア人はラテン文字も分かるからだ。

 

 ロシアでの出願審査は約1年かかる。拒絶される場合もあり、例えば子音のみで構成される言葉、消費者を混乱させるような言葉(「赤の広場」が含まれるなど)が挙げられる。

 

 ユーラシア経済連合条約に基づき導入が進められている域内で権利が有効となる統一商標には、カザフスタンのカザフ文字からなる商標を登録する意味はなく、これはキルギス、アルメニアの文字にも当てはまる。その他の国の人が文字を見ても理解できないからだ。統一商標として登録する場合は、ラテン文字からなるものと、ロシア以外でもある程度理解されるキリル文字のものを登録し、例えばアルメニア文字の商標はアルメニアのみで登録することになるだろう。

 

<並行輸入の賠償金が高額化>

 ロシアにおいて水際で税関が並行輸入品を差し止めて提訴する行政訴訟では、権利者側に有利な時期もあったが、並行輸入を違法でないとした2009年の最高商事裁判所のポルシェ・カイエン事件の判決をきっかけに、行政訴訟で取り締まることができるのは事実上、模倣品のみとなった(2009年3月25日記事参照)。これ以降、行政訴訟はなくなったが、商標権の権利者が提訴する民事訴訟の大半では権利者の訴えを支持する判決が出ている(注1)。

 

 2014年には、並行輸入された有名ブランドの時計の販売を禁止し、並行輸入業者に対して30万ドルの賠償金を権利者に支払うことを求める判決が出た。30万ドルは外国ブランド品が関わる事件では過去最高額となった。賠償額は高くなる傾向にある。

 

 そうした中、ロシアで並行輸入を認めようとする議論が再燃している。並行輸入業者が連邦反独占局、政府関係者、ユーラシア経済委員会の関係者に対し、並行輸入を支持するよう働き掛けている。

 

 並行輸入に係る商標権の消尽に関する民法第4部第1487条の「ロシア連邦領域内」という領域概念を削除して並行輸入を可能にする案のほか、補修用自動車部品、医薬品、医療機器に限って並行輸入を認める案も出ている。連邦反独占局は、権利者が現地生産を行っている場合に当該製品の並行輸入を禁止または制限できるようにする案を提示した。2020年からの施行を提案している。

 

 ユーラシア経済連合として商標権の消尽は、地域消尽の原則を取っており、並行輸入を合法化させるには他の加盟国との協議が必要となる(注2)。

 

(注1)日本では、真正品の並行輸入は商標権侵害にならないと判例などで認められている。

(注2)ロシア、ベラルーシ、カザフスタンはこの原則だが、201512日に加盟したアルメニアは国際消尽の原則を採っており、加盟後3年以内にEEUの原則に合わせることとなっている。ビリューリン氏によると、8月に加盟したキルギスは権利消尽の原則が同国の法律で規定されていないが、加盟後2年以内に地域消尽の原則になる。

 

(浅元薫哉)

(ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、アルメニア、キルギス)

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