明確な産業政策や投資環境改善めぐり議論-日越経済フォーラム(2)-

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年11月02日

 シリーズ2回目は、「日越経済フォーラム」(10月14日)のパネルディスカッションで行われた議論の内容について報告する。ベトナムの経済改革、日越間の経済協力関係をテーマに議論。明確な産業政策や投資環境改善を求める日本側と人材育成、裾野産業への投資に期待するベトナム側、それぞれの立場から積極的な意見が出された。

<経済改革には明確な方針が必要と指摘>

 政策研究大学院大学政策研究院の川崎研一シニアフェローは、環太平洋パートナーシップ(TPP)や東アジア地域包括的経済連携(RCEP)といった経済連携協定が、中長期的な経済成長を促すために重要で、関税のみならず非関税障壁の撤廃など幅広い経済改革を通じて、経済効果がより大きくなる、と解説した。

 

 在ベトナム大使館の永井克郎公使は、経済改革には政府、企業、国民の3者に共有される明確な方針が必要だと指摘し、どの分野にどういうかたちで政策資源を集中投下するかといった議論をベトナム側に求めた。

 

 ベトナム日本商工会の徳山司文会長は、ベトナムでの事業展開の問題点として、最低賃金上昇レベルの適正化、電力・水・交通・病院などのインフラ整備、通関などの行政手続きを挙げ、改善を求めた。

 

 越日ビジネスフォーラムのダン・タイン・タム会長は、TPP加盟国の中でベトナムが最も金利が高くコスト競争力の大きな阻害要因だと指摘、国有企業とのビジネス機会における平等性の確保も求めた。

 

 これに対して計画投資省のグエン・チ・ズン副大臣は、日越の企業関係者から挙げられた問題への政府の取り組みを説明する一方、特にインフラ整備については日本企業の協力を求めた。

 

<裾野産業育成に向けた人材育成の重要性を強調>

 商工省のグエン・カム・トゥ副大臣は、裾野産業振興のための政令を近く制定し、技術移転、市場拡大、産業クラスター構築などで優遇を図る方向性にあることを説明した。また、2013年に策定した工業化戦略についても、地方政府の円滑な実施がカギ、との認識を示した。

 

 ズン氏は、裾野産業で地場企業からの調達が進まない点については、「鶏が先か、卵が先か」という議論と同じだと述べた。日本側は地場企業の質が不十分と感じており、ベトナム側は納入先がないと安心して投資できないと指摘。日本企業の決断は慎重だが、時には即断即決も必要だとし、日本側に先行投資を求めた。

 

 ハノイ裾野産業協会のグエン・ホアン会長は、日本の中小企業に対して、ベトナムで調達したい部品についての情報提供を求め、ベトナム側のサプライヤー情報も重要だ、とコメントした。

 

 こうしたベトナム側の意見に対し永井公使は、今までの裾野産業育成策では繊維、皮革、電子部品、自動車部品、ハイテク製品など多業種が対象となっており、ベトナムの産業実態にそぐわないものも見受けられると指摘。その上で、戦略的視野をもって、裾野産業の中でどの産業を育てていきたいかを明確にすることが必要だ、とした。

 

 徳山会長は、今後の産業基盤育成には日本の中小企業進出も重要で、中古機械輸入規制の緩和など、進出しやすい環境が必要、と述べた。また、裾野産業育成のためには人材育成や人材交流も重要なことから、日本企業からの専門人材の受け入れを検討してほしいなどと要望した。

 

 ベトナム商工会議所のブー・ティエン・ロック会頭も、人材育成や職業訓練などのプログラムを通じた、日越間の人材育成分野における連携強化の必要性を強調した。

 

<都市部における地方省のアピールも求める>

 地方政府関係者として、タインホア省のグエン・ディン・スン人民委員長は、ギソン製油所の生産能力拡大、IT、農業、ハイテク、医療、人材育成、沿岸リゾート開発などへの日本企業による投資を呼び掛けた。これに対し、永井公使は、今後の地方省への投資拡大に当たっては、人民委員会による進出企業へのきめ細かな対応に加え、ハノイ、ホーチミンなど都市部での投資環境に関するPRの重要性を指摘した。

 

荒井拓也、竹内直生

(ベトナム)

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