課税ベースを拡大する傾向、各州の税法の違いに注意を-会計士招き、米国の売上税・使用税セミナー-

(米国)

ニューヨーク事務所

2015年11月27日

 ジェトロ・ニューヨーク事務所は10月9日、中小企業をはじめとする在米日系企業を対象に、米国の売上税および使用税についてのセミナーを開催した。売上税および使用税は、地域によって課税対象や税率が異なり、複雑な体系を有する。近年、州は売上税の課税ベースの拡大を図る傾向にあり、複数の州に事業展開する小売業者にとって売上税の正しい理解は重要だ。下村会計事務所の下村昌樹公認会計士による講演内容を紹介する。

<電子商取引の増加で税収確保が困難に>

 米国における売上税および使用税は州政府および地方自治体による課税で、原則として徴収義務のある州内の地域で小売業者が最終消費者へ商品を販売する際に課税される(徴収義務は小売業者に生じる)。日本の消費税との大きな違いは、地域によって課税対象や税率などの規則が異なる点と、再販目的で販売する製品については売上税を徴収しない点にある(注)。

 

 州外の顧客への販売の場合は、州内の売上税は免除されるのが原則だ。ただし、消費者が居住する州で商品が課税対象である場合は、売上税に代わり、消費者に対して使用税が課せられる(納税義務は最終消費者)。

 

 売上税および使用税は全米で2番目に大きな税収であるため、州の財源として重要視されている。しかし、近年の電子商取引の増加に伴い、州外取引が増加したことで、売上税を納付しない小売業者が増加する一方で、消費者も正しく使用税を自己申告しないケースが多いため、州の税収確保は困難になっている。

 

 売上税および使用税が複雑な体系を有し、小売業者にとって管理業務の負担が大きいことも、州の税収確保を妨げる要因の1つだ。全米では、州や地方自治体が設定する約1万もの管轄下でそれぞれ税率や課税対象が異なるため、複数の地域にわたって事業展開する小売業者にとって、正しい売上税申告を難しくしている。

 

 例えば、ニューヨーク州では以下のような独自の制度がある。

 

○果汁70%を超える飲料は生鮮食品と同じ扱いとなり非課税だが、果汁70%未満の飲料は課税対象

○カットされていない状態のパンは非課税だが、サンドイッチなどすぐに食べられる状態に加工された食品は課税対象

 

<州をまたぐ事業展開では各地域の税制理解が必要>

 売上税の申告漏れが原因で、倒産を余儀なくされた近年の事例に、2009年のマットレス・ワールドがある。

 

 オレゴン州に拠点を持つマットレス・ワールドは、隣接するワシントン州の顧客にもマットレスを販売するとともに、自社トラックを用いて顧客に商品を届けるサービスを提供していた。

 

 ワシントン州ではオフィスや店舗などの物理的拠点が州内になくても、自社トラックを用いて州内の顧客に商品を届けることは、州内に事業関連性(ネクサス)があると判断され、売上税の課税対象となる。ワシントン州では売上税の徴収義務があるが、オレゴン州では売上税の徴収義務がないことから、同社は売上税をワシントン州の顧客から徴収していなかった。

 

 申告漏れが指摘された時点で、同社はワシントン州に対し200万ドルの未払い税金、利息および罰金を支払うことになり、最終的に同社は倒産する事態に陥った。

 

<税収増のため多くの州で事業関連性の概念を拡大へ>

 マットレス・ワールドの事例で問題となった事業関連性は、各州が独自の法律で規定しており、司法の解釈により課税基準が決まるなど不透明な部分が多い。

 

 州内に物理的拠点があることで州に事業関連性があると判断して、各州は課税権を行使するのが一般的だったが、近年では課税権の拡大を目指し、エコノミック・ネクサスやアフィリエイト・ネクサス、クリック・スルー・ネクサスなど、州内に物理的拠点を有さずとも、一定の条件下で事業関連性を有すると判断できる新たな概念を、各州は導入する傾向にある。

 

 エコノミック・ネクサスとは、州の定める一定の活動が存在した場合に事業関連性を有すると認定する概念。多州間租税委員会(MTC)では各州で異なるエコノミック・ネクサスの概念の統一を図っている。MTCの公表するガイドラインでは、以下のいずれかの基準を満たした場合、州に事業関連性を有すると認定される。

 

○州内の資産が5万ドルを超える場合

○州内の人件費が5万ドルを超える場合

○州内の売上高が50万ドルを超える場合

○総資産、総人件費、総売上高のいずれかが州内で25%を超える場合

 

 アフィリエイト・ネクサスとは、州内に拠点を置く子会社などの関連会社が行った活動を理由に、事業関連性を有すると認定する概念だ。

 

 クリック・スルー・ネクサス(別名「アマゾン税」)とは、州内の業者と有償で紹介契約を結び、仲介業者が州外事業者の代わりに行う販売に係る勧誘行為がある場合、事業関連性を有すると認定する概念だ。

 

 下村氏は「マットレス・ワールドのような極端な事例はまれではあるが、売上税の申告漏れは多くの小売業者にとって起こり得ることであり、顧客の所在する州の税制度を十分に理解した上で取引をすべきだ」と指摘する。会計士などの専門家に、事業関連性の調査を依頼することも申告漏れ対策となる。

 

<連邦は簡素化に向けて法改正の動き>

 アマゾン税などを導入する州が増えている一方で、連邦議会では2013年に市場公正法案(MFA)が提出された。同法案は、適用条件を満たす州には物理的拠点の有無にかかわらず、州外事業者に対して売上税の徴収義務を課す権限を与えるとするものだ。2013年の法案提出では下院を通過しなかったが、20153月に上院に再提出された。また、市場公正法案に適用要件を追加するなど幾つか変更が加えられた遠隔商取引等価法案(Remote Transactions Parity Act)も、20156月に下院に提出されている。

 

 オンライン販売簡素化法案も、MFAと同様の趣旨で20153月に下院に提出された。MFAは消費者の所在地に基づき課税されることに対し、同法案では小売業者の所在地に基づき課税される。州内顧客と同様に、州外顧客に売上税を請求することが可能なため、小売業者にとって管理業務の負担が小さくなる。各州は、税収を州間で調整することも可能だ。

 

 州間協定としては、売上・使用税簡素化協定(SSUTA)がある。同協定の特徴は、(1)課税対象の定義を統一、(211申告制、(3)申告書のフォームを統一、(4)品目ごとの税率を統一、などだ。これまでのところ加盟州は24州で、その人口は全米の28%にとどまっており、現状では影響力は小さい。

 

(注)再販売者が売上税を免除されるためには、再販売証明書を取得する必要がある。

 

(小川優太)

(米国)

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