女性労働者保護を細則に示した政令が公布

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年11月13日

 政府は10月1日、労働法の中で必ずしも明確ではなかった女性労働者に対する規定の細則を示した政令(85/2015/ND-CP、以下「政令85号」)を公布した。11月15日から施行される。

<男女平等を使用者に義務付け>

 2013年に施行された労働法(102012QH13)第10章では、女性労働者に対する特別規定が盛り込まれていたが、その詳細が明確でない部分もあった。例えば、労働法1531項の「女性労働者に対する平等な労働権の保証」に関して、政令85号では使用者に対して、採用、雇用、賃金、昇進、各種保険制度、労働条件、勤務時間などに関する男女の平等権を確保することが義務付けられた(51項)。

 

 また、1542項に定める、女性の権利・利益に関する問題を決定する際の「女性労働者の代表」について、政令85号では企業内組合がある場合は当該組合が代表することとなった(41項)。他方、企業内組合が未設立の場合は女性労働者の要求に基づき上部労働組合が代表し、要求がない場合には使用者は女性労働者の過半数の意見を聴取しなければならないとされた(42項)。

 

<生理休暇の一部を有給に>

 政令85号では、女性労働者への健康保護に関する規定も盛り込まれた。

 

 生理休暇については少なくとも月3日取得でき、それぞれの日の30分については有給にできるとされた。なお、当該休暇の具体的な時間は、事業場の実際の条件や労働者の要求に応じ労使双方の合意に基づくものとされている(72項)。

 

 12ヵ月未満の子供を養育中の女性労働者は、授乳、搾乳、母乳保管、休息のために160分、有給の休憩を取得できる(73項)。当該休憩も、労使双方の合意に基づくこととされている(75項)。また使用者は、事業場の実際の条件や労働者の要求、使用者の能力に応じて、搾乳・母乳保管室の設置が求められる(74項)。搾乳・母乳保管室は、少なくとも広さ6平方メートルの仕切られた空間で、電気、冷蔵庫、机、椅子などの設置に加え、衛生的に保たれることとされている(33項)。

 

 また、定期健診の際に保健省が公布した検診項目に基づく産科検診を受診することが可能となった(71項)。

 

<女性を多数雇用する企業は減税などで優遇>

 使用者は一定の条件に基づいて、保育園や幼稚園の建設・支援または運営にかかる費用・現物補助に対する計画を整備することが義務付けられた。当該補助の金額・期間は使用者と女性労働者の合意に基づくものとされている(91項)。

 

 政令85号では使用者に対する補助政策として、多数の女性労働者を雇用する企業に対して法人所得税の減税や一定の規模・水準を満たした保育園や幼稚園などの施設建設に投資した企業への優遇なども規定されている(111項、2項)。なお、「多数の女性労働者を雇用する企業」には、(11,000人以上の女性労働者を雇用する場合、(2)女性労働者が101999人で労働者全体の30%以上を占める場合、(3)女性労働者が1099人で労働者全体の50%以上を占める場合、のいずれかに該当することとされている(31項)。

 

<進出日系企業からは懸念の声も>

 当地日系製造業においては、自動車部品や電子部品の組み立てをはじめとして、従業員の9割以上を女性労働者が占めているケースは多く、各企業としては就業規則の変更など実務面での影響が出ることが考えられる。例えば、生理休暇については生産管理や勤怠管理に影響が出る可能性を指摘する企業もあり、「労働組合などと協力しながら、過剰な権利要求とならないようなルール作りが必要」との声も聞かれる。保育園や幼稚園への補助についても、今後行政機関から当該施設の建設を名目とした過剰な寄付を求められるのではないか、と心配する声もある。

 

 他方、法人税減税など政令85号では明確になっていない規定もあるため、詳細な実施通達が待たれる。

 

(竹内直生)

(ベトナム)

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