新車の新検査法にEU加盟国が合意-2017年9月から導入、VW問題に対応-

(EU、ドイツ)

ブリュッセル事務所

2015年11月16日

 欧州委員会は10月28日、新車販売に対する許可基準として、新たな検査法である「実走行排ガス試験(RDE)」の適用を、2017年9月1日から開始することにEU加盟国が合意したと発表した。欧州の自動車最大手フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題発覚以降、欧州議会を含めて規制厳格化を求める声が強まっていた。

<ディーゼル車の排ガス規制を厳格化>

 欧州委は1028日、EU加盟国が自動車技術委員会(TCMV)において、ディーゼル車の排ガス規制の厳格化に合意したことを歓迎すると発表した。欧州委は、従来の屋内検査施設での測定では、走行状態で排出される大気汚染物質の量を正確に把握できない点を問題視している。この対策として、EU加盟国は新車販売に対する許可基準として、新たな検査法「実走行排ガス試験(RDE)」を201791日に導入する。

 

<欧州議会は圧倒的多数で現行規制の見直しを決議>

 欧州委のエルジビエタ・ビェンコフスカ委員(域内市場・産業・起業・中小企業担当)は「EUは世界に先駆けて、唯一、これらの厳格な検査手法を導入に踏み切る。しかし、それで終わりではない。われわれは自動車型式認証システムなどの見直しについても、着手する考えだ。また、さまざまな(利害関係者の)意見にも耳を傾ける。本件について価値ある勧告を行った欧州議会には感謝する」と発表した。同委員が欧州議会の動きに言及した背景には、この発表の前日(1027日)の欧州議会本会議(フランス・ストラスブール)で、自動車の排ガス検査の早期見直しを求める決議が圧倒的多数(賛成:493、反対:145、棄権:25)で可決したことがある。この決議で、a.徹底調査の継続と不正に対する厳罰適用、b.排ガス検査の厳格化、c.EUレベルの監督機関の設置の方針が示された。

 

<不正に対する制裁や監視機関設置など今後の課題も浮上>

 欧州議会の決議はVWで問題となった「不正ソフトウエア(Defeat Devices)」(注)の搭載が今後の調査によって発覚した場合、EU加盟国当局が適切な制裁措置を取ることを求めた。また、欧州委に対しては、今後の不正調査結果を取りまとめて2016331日までに欧州議会に報告することを求めている。

 

 また、排ガス検査の厳格化についても、欧州議会は欧州委にRDE検査法の早期導入を迫った。ただ、欧州委が導入を検討していた窒素酸化物(NOx)排出のみを規制する現行案は認めず、硫黄酸化物(SOx)など全ての大気汚染物質の排出も規制対象に加えるべきだ、としている。このため、各国当局が発行した自動車型式認証・証明について、その妥当性を独立して検証でき、欧州委による評価もできるように見直されるべきだ、との考えも示した。

 

 このほか、欧州議会は欧州委に対し、EUレベルの監督権限を持つ機関の設置も勧告している。

 

 欧州議会のこの決議(勧告)に法的な拘束力はないが、欧州委に対しては強い圧力となり、EU加盟国の合意の下、各国の自動車型式認証当局(TypeApproval AuthorityTAA)は、201791日から、新たに認可される車両に対するRDE検査法を導入することになった。

 

 RDE検査法の早期導入を求める声は欧州議会を中心に根強く、ビェンコフスカ委員自身も「20161月の実施を想定している」(2015年10月8日記事参照)と発言したこともあったが、実現可能性を考慮した結果、201791日からの導入に落ち着いたものとみられる。また、今回の発表では、欧州議会から求められている不正に対する制裁や、規制対象の範囲(NOx以外の全ての大気汚染物質を含むか否か)、EUレベルの監視機関設置などの課題について、欧州委は明言を控えた。EU経済の成長を支える自動車産業に対する規制強化とあって、欧州委も対応に慎重を期している様子がうかがえる。

 

(注)不正ソフトウエア:屋内検査施設で検査中であると検知すると、自動的にNOx排出を抑制するソフトウエアを指す。路上での通常走行時には、NOx排出抑制機能が作動しないため、NOx排出量は急増する。

 

(前田篤穂)

(EU、ドイツ)

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