農業分野における協力関係で活発に意見交換-日越経済フォーラム(3)-

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年11月04日

 「日越経済フォーラム」(10月14日)の第1分科会では、「ベトナム農業分野における日越協力」について、両国の政府機関や企業により議論が交わされた。

<発展潜在性が大きい一方、課題も多いベトナム農業>

 モデレーターを務めたジェトロ・ハノイ事務所の川田敦相所長は、ベトナム農業の現状と課題について説明した。ベトナム農業分野は大きな発展潜在性を有する一方、(1)農業生産性の低さ、(2)衛生・食品安全性への対応の遅れ、(3)農業周辺インフラの遅れ、などの問題を抱えている上、食品加工業も低付加価値の1次加工が中心という問題点があることを指摘。他方、中間所得層の増加を背景に、安心・安全な野菜に対する需要の高まりがみられる、と述べた。

 

 こうした状況の下、20158月の「日越農業協力対話第2回ハイレベル会合」でも、(1)ベトナム農業の生産性・付加価値の向上、(2)食品加工・商品開発、(3)流通改善・コールドチェーン、などに取り組む方向性が示されたと説明。また日系企業の動向として、ソンラ省、タイグエン省、ラムドン省、メコンデルタ各省などで生産・加工分野への進出事例を挙げた。ジェトロとしては、日系企業のベトナム進出・事業拡大に向けて、201512月に農業ビジネスミッションを企画していることなどを紹介した。

 

<外資を含めた企業の農業分野参入を支援>

 続いて各パネリストから、農業分野発展に資するための日越協力の在り方についての提言や、日本からの農業・食品加工分野への進出を促進するための取り組み事例の紹介などが行われた。

 

 農業農村開発政策戦略研究所のグエン・ド・アイン・トゥアン所長は、ベトナム農業の問題点として、(1)生産者に市場志向が不足している、(2)労働集約型で進められており高度技術が十分活用されていない、(3)生産者と企業との連携が不十分なためバリューチェーンが形成されていない、などを挙げた。こうした問題に対応するため、政府は2013年に農業再構築策を打ち出し、高度な農業技術の導入による農業近代化や、生産者と企業との連携協力強化、企業が農業に参入するための補助金・支援策などを実施するとともに、制度面でも外資優遇を含めた法令を検討中であることなどを紹介した。その上で、日本企業に投資を求める分野として、農業資材の製造・提供、科学技術・研究開発、生産加工輸出、農業インフラ投資、の4つを挙げた。

 

 地方政府機関として、タインホア省人民委員会のグエン・ドゥック・クエン副委員長は、同省として生産から加工・流通までの一貫した生産者と企業の連携をつくり上げ、将来的には高付加価値の農産物輸出も目指している、と述べた。そのために、農産物の加工・製造分野や農業機械の提供などに対する日本からの投資を呼び掛けた。

 

 ベトアバンク(VietABank)のフォン・フー・ビエト会長は、ベトナム民間企業の立場から、コメ、野菜・果物、食肉、花、園芸作物などの分野において今後、2次投資が行われれば大きなチャンスが期待される、と述べた。

 

<市場ニーズに基づく農業生産への転換迫られる>

 国際協力機構(JICA)ベトナム事務所の森睦也所長は、ゲアン省とラムドン省のモデル事業を通じて、食品の安全性向上や効果的な流通網整備の観点から、モダントレード(近代的小売業態)との連携や高付加価値化に向けた農産物の収穫後管理体制の強化などに取り組んでいることを紹介した。現状では、生産者が短期的に収量を増やすことに集中してしまっているが、「作れるものを作って売るだけの農業」から「市場ニーズを反映して生産する農業」へ転換を図ることで、フランスのような農業大国に発展する可能性が十分あるとの認識を示した。

 

 三菱東京UFJ銀行の松山安男ベトナム総支配人兼ハノイ支店長は、農業関連進出日系企業(相談ベースを含む)は前年の約3倍のペースで大きく増加しており、主に中堅・中小の進出企業がビジネスチャンスを見いだし始めているほか、大手企業による原料調達を目的とした進出検討事例も出てきていることを説明した。その上で、進出に当たっては、都市近郊型(ハナム省)、高原型(ラムドン省)など、それぞれの進出先の特色を踏まえた見極めが必要だと強調した。また同行として、国内の戦略的パートナーである地場金融機関との協力を通じて、農業分野での金融サービス提供を積極的に行っていくとした。

 

竹内直生

(ベトナム)

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