TPP大筋合意を「将来の繁栄の大きな礎」と歓迎

(オーストラリア、日本)

シドニー事務所

2015年10月22日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)の大筋合意を受け、マルコム・ターンブル首相は「大きな利益をもたらし、われわれの将来の繁栄の大きな礎となる」とコメントした。オーストラリアの輸出品の約70%はTPP交渉参加国へ輸出されており、TPP発効により90億オーストラリア・ドル(約7,830億円、豪ドル、1豪ドル=約87円)分の関税が削減される。農業分野では43億豪ドル分の関税撤廃に加えて、21億豪ドル分の輸出数量枠の拡大や関税削減効果を得られるとの見方もある。

TPP発効で90億豪ドルの関税撤廃効果>

 TPP交渉の大筋合意を受けて106日に発出されたターンブル首相とアンドリュー・ロブ貿易・投資相のメディアリリースによると、「大筋合意は急速に成長するアジア太平洋地域の新しい経済成長や機会の先駆けとなるランドマークだ。オーストラリアとアジア太平洋地域は重大な経済転換期にあり、TPPはオーストラリア経済の近代化という21世紀のわれわれの挑戦に対して、大きな機会を利用可能にする。また、TPPではオーストラリアの同地域への融合や繁栄をもたらす貿易ルールが設定されている。地域の経済連携協定であるTPPは中国、日本、韓国との2国間の貿易交渉の結果にさらなる効果をもたらし、それら2国間交渉の枠を超えて消費者やビジネスに大きな利益をもたらすことで雇用を創出してオーストラリア経済を強化する」と大きな期待感を示した。

 

 外務貿易省(DFAT)によると、TPP交渉参加国の貿易は世界貿易の約半分を占め、オーストラリアの貿易の約70%を交渉参加国との貿易が占めていることから、アジア太平洋地域とオーストラリアの貿易・投資の拡大や深化は将来の経済成長や繁栄にとって極めて重要と位置付けている。また、新たな交渉国の参加については、同地域の諸国に対しては門戸を開いており、参加国を徐々に増やすとの立場を表明している。

 

 TPP発効に伴う効果については、オーストラリアからの輸出品に課せられていた90億豪ドルの関税が撤廃されることとなる。中でも、農産品分野では2014年の輸出額の約40%、140億豪ドルがTPP交渉参加国に輸出されていることから、TPPの発効を通じて43億豪ドル分の関税撤廃効果、21億豪ドル分の輸出数量枠拡大や関税削減効果があるとDFATは分析している。

 

<牛肉と牛肉製品は日豪EPA上回る効果>

 具体的には、牛肉と牛肉製品に対しては日豪経済連携協定(EPA)での合意事項を上回る効果に加えて、メキシコ、カナダ向けの関税が今後10年間で撤廃されること、米豪自由貿易協定(FTA)で定められたセーフガードが撤廃されるといった関税撤廃や削減などの効果があるとした。砂糖については、20年以上の年月をかけて初めて米国砂糖市場へのアクセスを手に入れ、日本に対しても日豪EPAよりも良い条件を得たとしている。また、日本がオーストラリア産のコメの輸入割当量を拡大したことは、新たな輸出先の確保につながると評価している。乳製品については、日本向けの輸出品に課せられていた関税1億豪ドル分以上が撤廃され、優先的な市場アクセスが可能となるとし、バターや粉のスキムミルクで新たな輸入数量枠が設定されるとしている。米国向け輸出については、粉ミルク、アイスクリーム、特殊調製粉乳、幾つかのチーズの関税が撤廃され、オーストラリアからのチーズの輸入割当枠が9,000トンまで拡大するとした。また、メキシコや参入障壁の高いカナダ市場への優先アクセスを手に入れたとしている。

 

 一方、サービス業についてはオーストラリアからの輸出の35%に相当する200億豪ドルがTPP交渉参加国との間で取引が行われており、オーストラリアのアジア太平洋地域へのサービス輸出の拡大や多様化に資するとの見方を示した。

 

TPP発効で医薬品は値上がりせず>

 106日の「シドニー・モーニング・ヘラルド」紙(電子版)は「TPP下でも医薬品価格は上昇しないだろう」とする記事を掲載している。「アトランタでの閣僚会合では、米国が医薬品のデータ保護期間で譲歩するまで、オーストラリアと米国が交渉を長期化させた」とし、「オーストラリアが米国に12年の保護期間を58年とする案を受け入れさせた」とした。ターンブル首相は「ウィン・ウィンの結果となった。われわれのデータ保護、医薬、特許に関する法律に変更はない。今回の交渉ではオーストラリアの医薬品給付システム(PBS)には何も影響はなく、オーストラリアの医薬品は値上がりしない」とした。また、ターンブル首相はオバマ米大統領と直接電話会談を行ったことを明らかにし、その上で「TPPのような交渉は大きな利益をもたらし、それはわれわれの将来の繁栄の大きな礎となる。各国が批准すれば、オーストラリアのビジネスは参加国に対して、よりたやすくサービスを提供できるようになり、より安く商品を輸入することができる。それによって雇用を創出できる」と述べた。

 

(平木忠義)

(オーストラリア、日本)

ビジネス短信 fbaf68dd2fbd5d71