複雑な時間外労働・有給休暇・日給の計算-カンボジア労務基礎セミナー(3)-

(カンボジア)

プノンペン事務所

2015年10月16日

 「カンボジア労務基礎セミナー」報告の最終回は、労働時間と時間外労働、有給休暇や日給の計算について。同国では原則1日8時間、週48時間が法定労働時間だが、変則的な勤務体制も可能。有給休暇については、1年間の勤務後に取得できるとされているが、初年度からの取得も可能だ。

<変則的な勤務体制も可能>

 ジェトロの労務・法務専任委託コーディネーター田宮彩子氏は、カンボジアの労働時間と時間外労働、有給休暇や日給の計算について、以下のとおり講演した。

 

 カンボジアでの法定労働時間は、原則18時間、週48時間を超えることができず、管理職を含む全ての労働者に適用される。しかし、週48時間を超えなければ、例えば月曜から金曜までは9時間、土曜は3時間とすることも可能で、このような変則的な勤務体制は、労働者代表または全ての労働者から同意を得るとともに労働監督官の承認が必要だ。

 

 一方、雇用契約書上の労働時間を17時間にすると、7時間を超えたものは全て時間外労働の手当の対象となるため、実労働時間が7時間で十分な場合でも、雇用契約書上は18時間、週48時間としておくことを勧める。休憩時間は、18時間の労働の合間に最低1時間の昼食・休憩(ランチタイム)を与える必要があり、これは労働時間に含まれない。加えて、1週間に1回は連続24時間の休日(原則日曜)を与えなければならない。

 

 時間外労働は労働者に対して強制性はなく、例外的かつ緊急の場合に限り事前に労働職業訓練省が許可したものに限る。また、原則として縫製・製靴業は12時間を上限としており、時間外労働のほか食事または2,000リエル(約60円、1リエル=約0.03円)の食事手当を支給することとなっている。労働職業訓練省への許可については、突発的な時間外労働が発生することもあり、雇用者は臨機応変に対応しているのが実態だ。近年、政府は国際機関からの長時間労働に対する指摘や非難が相次いでいることを踏まえ、時間外労働に対する取り締まりを強化しつつある。

 

 時間外労働・夜間労働・休日労働の手当は、表のとおり。

<初年度からの有給休暇取得も可能>

 有給休暇(労働法166条~)は、1ヵ月に1.5日の割合で年間18日与えられ、勤続3年間ごとに1日ずつ追加される(図1参照)。1年間の勤務後に有給休暇を取得できると労働法に規定されているが、初年度から有給休暇を取得することも可能だ。行使する権利を取得する前に契約が終了した場合は、平均日給を基準とした買い取り補償が必要となるため、初年度から有給休暇の使用を認めている日系企業も多い。

 カンボジアの製造業では労働者が毎年、休暇日数の清算を希望し、雇用者も雇用契約中の労働者の有給休暇の買い取りを行っていることが多い。しかし、契約終了前に有給の買い取り(補償)を行うことは法律で禁止されていることに留意が必要だ。

 

<週6日の場合の勤務日数は26日>

 日給計算に使用される1ヵ月の勤務日数は、労働職業訓練省令1099の計算式に基づく(図2参照)。

 この式によると、週6日勤務の場合は1ヵ月26日となる。週5日勤務の場合は1ヵ月22日(端数は切り上げ)、週5.5日勤務の場合は1ヵ月24日(端数は切り上げ)となる。

 

 「基本日給(標準日給)」は、月の途中に入社あるいは、退社した場合の月給計算に用いられる。法令上の定義はないが、契約書に明記された基本賃金(基本月給)を基準に1ヵ月の勤務日数で割ることが多い。基本日給の計算に含める手当は年功手当や技能手当で、基本日給の計算に含めない手当は皆勤手当、住宅通勤手当との仲裁判断がある。基本時給は基本日給を1日の労働時間で割った額となる。

 

 「平均日給」は、有給休暇の補償、解雇時の解雇補償、事前通知なしの雇用契約の終了・解除や契約違反による雇用契約解除の損害賠償などの計算に用いられる。退職または契約終了・解除の日より前の12ヵ月を超えない雇用期間に、労働者が受領した賃金および手当の合計(税抜き)を基準にする(労働法110条)。ここでいう「賃金および手当」には、基本賃金のほか、時間外手当、賞与、年功手当、皆勤手当、通勤・住居手当、食事手当など全ての手当が含まれる。平均月額(平均月給)は、過去12ヵ月間に支払われた賃金および手当の合計を12ヵ月で割った額、平均日給は平均月給を1ヵ月の勤務日数で割った額となる。

 

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 なお、ここで紹介したことはセミナー開催時点での解釈・実務に基づいており、変わる可能性もあることに留意してほしい。また、労働問題に適切に対処し事態を悪化させないため、雇用者側には、労働法を念頭に就業規則を整備し、関連資料を手元に置いておくなどの対策が求められる。

 

俣野有美)

(カンボジア)

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