軽油優遇税制を見直し、ディーゼル車の普及方針を転換へ
(フランス)
パリ事務所
2015年10月26日
フランス政府は10月14日、軽油優遇税制を見直す方針を発表した。これまで軽油の税込価格をガソリンより低くすることで、ディーゼル車の普及を促してきた政策を転換する。新車販売台数に占めるディーゼル車の割合が低下しているのに加え、フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制不正問題やパリ市のディーゼル車規制強化などにより、ディーゼル車離れに一層拍車が掛かりそうだ。
<ガソリンを減税し軽油課税を引き上げ>
政府はこれまで、フランス自動車市場で主流を占めるディーゼル車の燃料となる軽油の1リットル当たり税込価格を、ガソリン燃料に比べて約20セント(1セントはユーロの100分の1)安くなるように設定(注)してきた。しかし、政府は「これがディーゼル車の普及を促し、その大気汚染への影響について多くのフランス人が懸念するところとなった」として、「軽油とガソリンの価格差を向こう5年にわたり是正する措置を国民議会に提案することに決めた」と発表した。11月30日からパリで開催される国連気候変動枠組み条約第21回締結国会議(COP21)の開催を前に、ディーゼル車支援政策の転換を決めた。
2016年からガソリン税を現在の水準に比べ1リットル当たり1セント減税する一方、軽油税を1セント増税する。また、ディーゼル車の廃車に係る補助金制度を拡充し、環境対応車への買い替えを促す(表参照)。具体的には、現行の補助金制度のうち、制度の適用対象となるディーゼル車の「新車登録から15年以上」(2001年1月以前の登録)を「新車登録から10年以上」に広げ、低所得世帯向け特別追加支援の支給額も500ユーロから1,000ユーロに引き上げる。
同措置は、9月30日に閣議決定した2016年予算法案に盛り込まれた。軽油税の引き上げによる増収分(2億~2億5,000万ユーロ)は、「年金受給世帯などの低所得世帯への減税財源に充てる」方針だ。
<新車販売に占めるディーゼル車の割合は急減>
新車販売台数に占めるディーゼル車の割合は、2012年までは70%を超えていたが、2013年以降は低下し続けている。政府発表(2015年10月12日)によると、2015年1~9月における乗用車の新車販売台数に占めるディーゼル車の割合は57.6%と前年同期より6.5ポイント低下した。9月単月では55.3%と過去5年で最低を記録した。一方、1~9月のガソリン車は38.4%前年同期より5.5ポイント増えた。ハイブリッド車(0.7ポイント増の3.1%)および電気自動車(0.3ポイント増の0.8%)は緩やかな増加を続けた。
VWの排ガス規制不正問題でディーゼル車への信頼は大きく揺らいでおり、自動車市場におけるディーゼル車の割合は低下していくとみられている。2015年9月22~23日に実施された世論調査では、フランス人のほぼ10人に6人が「ディーゼル車を環境対応車と思わない」と答えた。また、「VW以外の自動車メーカーも、欧州の排ガス規制について不正を行っていると思う」と回答した人の割合は91%に上った。
他方、パリ市が進めるディーゼル車規制も、フランス人のディーゼル車離れに拍車を掛けそうだ。排気ガスによる大気汚染の深刻化を受け、パリ市のアンヌ・イダルゴ市長は2014年12月、ディーゼル車規制を柱とする公害防止計画を発表し、2020年までにパリ市内におけるディーゼル車の通行を全面禁止する方針を示した。
パリ市では2015年9月1日から既に、3.5トン以上のディーゼル車のうち2001年10月以前に新車登録された車について通行規制を適用し、平日・週末ともに午前8時から午後8時まで通行を禁止している。2016年7月1日以降は、1997年以前に新車登録された全てのディーゼル車について、週末および平日夜間(午後8時~午前8時)を除く時間帯の通行が禁止となる。
(注)石油産品国内消費税(TICPE)と付加価値税(TVA)を合わせ、1リットル当たりでガソリンに86セント、軽油には68セントが課税されている(2015年)。
(山崎あき)
(フランス)
ビジネス短信 d422bd4244923e35