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輸出競争力の低下を懸念、参加促す声も-TPP大筋合意でタイ産業界-

(タイ、ASEAN、米国)

バンコク事務所

2015年10月09日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉参加12ヵ国による大筋合意を受け、タイ国内産業界からは、米国などの主要市場における相対的な輸出競争力の低下を懸念する声が出ている。また、政府に参加の決断を促すコメントも報じられている。他方、TPP参加国との間の発効済み自由貿易協定(FTA)や米国の一般特恵関税制度(GSP)などを通じた恩典により、輸出競争力への影響は限定的との見方もある。主要民間経済団体で構成されるタイ商業・工業・金融合同常任委員会は、TPPが国内産業界に与える利益と影響を分析するため作業委員会を設立し、2ヵ月以内に政府へ提言書を提出する方針を表明した。

<タイはTPP加盟9ヵ国との間でFTAを締結>

 当地を代表する2大英字紙である「ネーション」紙と「バンコク・ポスト」紙は、いずれも107日付ビジネス版の1面でTPP大筋合意に対する国内の反応を伝えた。

 

 「バンコク・ポスト」紙では「TPPがタイに悪影響を及ぼす可能性は低い」として、複数の識者の見方を紹介した。そのうち、中央銀行のチラテープ・セニボング報道官は「タイはTPP加盟国のうち、ほとんどの国と既にFTAを締結しており、貿易面での競争力にそれほど影響は及ばないだろう。また(FTAを締結していない)米国向けの輸出は、同国のGSPにより、特定製品に対する関税減免の恩典を受けることが可能だ」としている。

 

 タイは201510月現在、TPP加盟12ヵ国のうち、米国、メキシコ、カナダを除く9ヵ国との間で2国間もしくは多国間での発効済みFTAを有している。

 

 また、タイの輸出先として10.5%の構成比(2014年実績)を占める米国については、20157月、2015年特恵関税延長法の施行に伴い、2013731日から約2年間失効していたGSPの適用が延長されている。これに伴い、タイを含む約120ヵ国の特恵受益国から輸入する対象品目への特恵税率の適用が、201381日に遡及(そきゅう)するかたちで適用が再開されている。タイ商務省によると、タイの米国向け輸出のうち約3,400品目が同制度の適用対象となり、特にエアコン・同部品、飲料、ゴム手袋、加工食品、レンズ、燃料ポンプなどの品目で同制度が最も活用されている。なお、GSP失効の前年に当たる2012年の実績では、GSP制度を通じた米国の輸入額は年間199億ドルで、そのうちタイは約2割の39億ドルを占める。

 

 また、チラテープ報道官は「タイは今後、質の高い製品・サービスの開発を進めるとともに、TPP加盟国のサプライチェーンに含まれることによる利益を適切に見極める必要がある」としつつ、「中央銀行の立場では、タイがTPPに参加すべきかどうかをコメントする立場にはない。それは政府の政策担当者が検討すべき事項だ」とコメントしている。

 

 タイ政府は107日時点で、TPPへの正式な参加の意思は示しておらず、プラユット首相が、参加によるメリットとデメリットを慎重に分析するよう関係機関に指示している段階にある。商務省のピムチャノック・ボンコーンポーン副報道官は「商務相は官民の関係者とTPPの影響や可能性について会合を行う予定だ。商務省も過去数年間、経済面での影響について調査しており、参加には強い関心を持っている」との立場を示している。

 

<地場自動車業界では輸出競争力への悪影響を心配>

 同紙ではそのほか、主要経済団体からの反応を複数紹介。タイ商業会議所のイサラ・ボンクソンキット会頭は「米国はタイにとって輸出全体の10%を占める主要市場であることを踏まえ、どのようなかたちで枠組みに参加すべきかを迅速に評価・検討する必要がある。他方で、参加することのデメリットも検討しなければならない。例えば、知的財産や医薬品、生物多様性、ハイテクなどの分野ではまだ準備が整っていない」とコメントしている。

 

 また、タイ工業連盟のワロップ・ビタナコーン副会長は「タイにとって参加の決断を下すべき時だ。民間セクターは新たな貿易圏への参加を支援する」と述べている。またタイ商業会議所自動車部会のスラポン・パイシットパタナポン報道官によると、201518月のタイの北米向け自動車輸出は、台数ベースで全出荷(78414台)の5.5%を占める。そのため、「政府がTPPに参加しなければ、マレーシアやベトナムの自動車・同部品の輸出競争力が上がることで、タイの自動車産業の輸出競争力が低下する懸念がある」としている。

 

<民間主要団体は政府の参加を後押しする姿勢>

 「ネーション」紙(107日)によると、タイ貿易委員会、タイ工業連盟、タイ銀行協会の主要3団体によって構成されるタイ商業・工業・金融合同常任委員会は月例委員会を開き、政府に対して、TPP参加の決断とその他の2国間・多国間レベルのFTA交渉を加速するよう促した。特に、1年以上停滞しているEUとの自由貿易交渉を進めることを要請した。

 

 同合同委員会は、TPPおよび交渉中のFTAが国内産業界に与える利益と影響を分析するための作業委員会(ワーキングコミッティー)を設立し、政府へ提言書を提出する方針を表明した。作業委員会は各団体から5人の代表者が参加するかたちで設置され、2ヵ月以内に提言書をまとめる方針。

 

 タイ工業連盟のスパント・モンゴンスティー会長は「タイの産業界はTPPに参加するASEAN4ヵ国に対する競争力の低下を懸念する。特にベトナムは、米国や日本、その他のTPP加盟国からより多くの対内直接投資を受け入れることになるだろう。タイは地域統合の中核的役割を果たす国として、貿易・投資のハブ機能を維持する方策を検討しなければならない」とコメントしている。

 

 また、タイ商業会議所のイサラ・ボンクソンキット会頭は「タイはTPPへ参加すべきだ。ただし、国内産業への影響を慎重に検討し、国内産業界への不利益を最小化し、利益を最大化する交渉を慎重に行う必要がある。また、交渉中のFTAでは、EUとの貿易のゲートウエーであるトルコとの交渉を早急に完了すべきだ」との見方を示した。

 

 タイ銀行協会のブーンタック・ワンチャルーン会長も「タイが競争力を高め、ASEANの中心という役割を果たすためには、主要貿易相手国とのFTA交渉をより積極的に進める必要がある」と訴えた。

 

<合意を歓迎する在ASEAN米国ビジネス界>

 ASEANでビジネスを展開する米国企業を構成メンバーとする米国ASEANビジネスカウンシルは105日のプレスリリースで、TPPの合意を歓迎した。アレクサンダー・フェルドマン会長は「TPP加盟国12ヵ国の3分の1にあたる4ヵ国(ブルネイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム)はASEANの国であり、フィリピンを含むその他の未加盟国も将来の加盟に関心を示している。TPPは米国とこれらのASEAN諸国との経済関係に、大きなプラス面の影響をもたらすだろう。また米国の、東南アジアひいてはアジア地域全体への関わりの中で、極めて重要な構成要素となるだろう」としている。

 

 会長はまた、「協定は米国企業にとって、11の太平洋諸国に対して市場開拓の機会をもたらすものになる。最も急速に成長する市場に対し、平等な競争条件の下で参入し、プレゼンスを高めるツールとなる。知財や環境、労働、eコマースなどの分野でもビジネス環境の整備が期待される」との見方を示した。

 

(伊藤博敏)

(タイ、ASEAN、米国)

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