経済発展に期待、国内産業への影響に懸念も-TPP大筋合意におおむね好意的-

(ベトナム)

ハノイ事務所

2015年10月15日

 環太平洋パートナーシップ(TPP)の大筋合意に関して、政府発表、当地報道ともおおむね好意的だ。TPP発効により、ベトナム側は繊維製品などを中心に輸出が増大し、経済成長に好影響をもたらすとみている。その一方で、畜産など幾つかの農業分野では国内産業が打撃を受けるとの見方もある。

<縫製分野での輸出増大に期待>

 政府と商工省は、ウェブサイトでTPPの大筋合意の事実を中心に伝え、併せて合意内容の概要を掲載した。当地の報道は、「世界貿易の将来に重要な影響を持つ歴史的な合意だった」と伝えるなど、一定の評価をしている。発効までの期間に関して、ベトナム側交渉代表団の団長であるブー・フイ・ホアン商工相は105日の記者会見で、「参加各国が正式署名のために法規を確認し、発効を承認する機関に提案する必要があるため、少なくとも18ヵ月を要する」との見通しを示した。

 

 TPP発効による影響について、ホアン商工相はベトナム経済に好影響をもたらすと述べた。ある経済学者の試算によると、ベトナムの(名目)GDP2020年に235億ドル、2025年に335億ドル分増加するという。特に輸出に関しては、2025年に680億ドル増加すると大きな期待を寄せる。ホアン商工相は「米国、カナダ、日本などの大市場の輸入関税が0%になることで、わが国の輸出に大きな変革をもたらし、繊維製品、履物、水産品など多くの潜在力を持つ分野で輸出額が大きく増加する」との見解を示した。

 

 ホアン商工相はまた、繊維分野がベトナム経済にとって重要な役割を果たしているとし、「TPPは繊維分野が大きく成長できるチャンスだ。特殊な分野のため多くの人材が必要となり、労働者にも大きな利益をもたらし、ベトナムの多くの貧困者を救うことになる」と述べた。

 

<透明性あるビジネス環境が重要>

 ボー・チー・タイン中央経済管理研究所副所長は、TPP交渉の大筋合意がベトナムの経済改革・発展のターニングポイントになるとの認識を示し、期待される3つの大きな変化を挙げた。

 

 1つ目は輸出だ。TPP参加国のGDPは世界全体の40%、貿易は30%を占め、世界で最も大きな消費市場となっているため、輸出増加が見込める。2つ目は外国直接投資。TPPにより投資環境が改善され、ベトナムへの外資の流入が急増することが見込める。3つ目は経済改革だ。TPP発効により長期的な観点から経済構造改革が行われ、透明性のあるビジネス環境になることが見込める。中でも3つ目が一番重要で、これが地場企業の生産活動の原動力になるとの見方を示した。

 

<農業や繊維分野では冷静な見方も>

 ベトナムでは前述したような好意的な意見が多いが、冷静な見方も出始めている。当地のある報道では、TPPはベトナムがこれまで締結した自由貿易協定(FTA)の中で最も高度であり、かつ即時実施が求められるとし、「TPP参加国の中で最も経済発展が遅れているベトナムにとって、小さな挑戦ではない」と、厳しい状況に立たされることがあると予想している。

 

 特に農業は、畜産など幾つかの分野で国際競争力が低いことから、輸入品が多くなり国内産業は試練を迎えるとみられている。また、輸出拡大が期待される繊維分野、中でも縫製品は、TPPに参加していない中国から輸入した糸や生地を原材料とするものが多い。当地報道によると、中国からの原材料の輸入が60%以上という企業もあり、原産地規則(注)を満たすのは容易ではないという。また、地場金融機関のエコノミストの中には、ベトナムがTPPに参加しても大きなメリットはないとの意見もあり、今後さらなる議論になることも予想される。

 

(注)関税削減・撤廃の対象となるためには、TPP域内で製造したというTPP原産に認められる必要があり、縫製品は域内で撚糸(ねんし)から製造した場合のみ認められる。

 

(佐藤進)

(ベトナム)

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